研究課題/領域番号 |
19H01167
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
国末 達也 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90380287)
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研究分担者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
野見山 桂 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (30512686)
久保田 彰 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (60432811)
寳來 佐和子 鳥取大学, 農学部, 准教授 (60512689)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 新規環境汚染物質 / 水圏生物 / 生物濃縮 / 時空間トレンド / リスク評価 |
研究実績の概要 |
本年度は2000~2015年にかけ瀬戸内海沿岸域に漂着したスナメリのアーカイブ試料を活用し、POPsの時系列解析を実施した。その結果、DDTs・CHLs・HCHsなどの有機塩素系農薬類は有意に低減していたが、PCBsと臭素系難燃剤(PBDEs・HBCDs)は定常状態にあることが判明した。また、スナメリの餌生物と考えられるマアジを化学分析に供試したところ、PCBsを除くPOPsの蓄積濃度は2008年と比べ2019年の検体で有意に低値もしくは同等であったのに対し、PCBs濃度は有意に高値を示し、瀬戸内海の低次海洋生物に対する相当量のPCBs曝露が現在も継続していることが示唆された。本研究で検出されたスナメリのPCBs蓄積レベルと水棲哺乳動物で免疫毒性が疑われている閾値を比較した結果、瀬戸内海系群のスナメリは35%の検体で閾値を超過しており健康影響が懸念された。 また本年度は、初年度に確立したリン酸エステル系難燃剤(PFRs)の分析法を用いて、瀬戸内海に生息する二枚貝の広域汚染の実態と地理的分布の解析をおこなった。その結果、近年採取した二枚貝の全検体からPFRsが検出され、瀬戸内海沿岸域におけるPFRs汚染の偏在化が初めて明らかとなった。PFRsは河口域に生息するカキに残留し易いことが示され、また同一地点にもかかわらず、イガイに比べカキのPFRs濃度が高値を示した。PFRsは難燃剤/可塑剤としての使用に加え、油圧作動油やエンジンオイルへの添加も報告されていることから、とくに河口域や潮間帯上部に定着するカキついては、船舶由来のエンジンオイルや海表面を滞留する油膜を介して特定のPFRsに直接曝露されている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、温帯海域の沿岸種であるスナメリの瀬戸内系群におけるPOPs蓄積濃度を測定し時系列変化を解析した。その結果、有機塩素系農薬類は有意に低減しており1970-1980年代における生産・使用規制を反映したものと考えられたが、PCBsや臭素系難燃剤(BFRs)のPBDEs・HBCDsは低減を示さず定常状態にあった。BFRsについては近年までの使用を反映したものと推察されたが、PCB製剤は1970年代に全廃されたことから製造・使用実績の観点では説明できず、閉鎖系用途で使用されたトランス・コンデンサー等からの継続した漏洩が疑われ貴重なデータを得ることができた。実際に、スナメリの餌生物の一種であるマアジも化学分析に供試したところ、スナメリで観測された結果と同様に瀬戸内海東部沿岸のマアジほどPCBs濃度は高い傾向を示し、スナメリでみられたPCBsの時系列蓄積プロファイルは、餌生物への近年の曝露と摂取による生物濃縮に起因しているものと推察された。 また本年度は、瀬戸内海に生息する二枚貝を対象にPFRs汚染モニタリングを実施し、TMPP・TCIPP・TPHPがほぼすべての検体に残留しており、これらPFRsの汚染が偏在していることを初めて明らかにし、船舶由来のエンジンオイルや海表面を滞留する油膜を介して曝露されている可能性を示した。加えて、内分泌かく乱作用を示すビスフェノール類や生活関連物質について魚類の組織試料に適用可能な分析法の開発に着手し、すでにマトリックスエフェクト、添加回収率、そして日内・日間変動で良好な結果を得ている。 さらに本年度は、アザラシのestrogen receptorを組み込んだin vitroレポーター遺伝子アッセイの構築に成功し、現在POPs様物質の転写活性化能を測定する準備を進めている。ゼブラフィッシュへの投与試験も継続しており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
水圏生態系の異なる栄養段階に位置する野生生物を対象に、POPs様物質、PFRs、そして生活関連物質の汚染実態と蓄積特性の解明を試みる。また、生物環境試料バンク(es-BANK)の保存試料を活用し、汚染の時系列変化を明らかにすることで、水銀を含めた上記環境汚染物質の将来変動を予測する。さらにin vitro/in vivo試験を実施し、内分泌かく乱性の評価をおこなう。詳細は以下の通り。 1.POPs様物質とPFRsの蓄積特性:es-BANKのアーカイブ試料を活用することで、寒冷域に棲息する鯨類と魚食性鳥類におけるPOPs様物質の蓄積濃度の時系列変化を明らかにし、化合物ごとの将来変動を予測する。また、すでに汚染実態を明らかにした二枚貝に加え、魚類やスナメリにおけるPFRsの曝露実態と蓄積特性を解明する。さらに網羅的スクリーニングを実施することで、水圏生物の組織に蓄積している新規環境汚染物質の探索にも着手する。 2.生活関連物質による環境水汚染と魚類の曝露実態:魚類の組織に適応可能な内分泌かく乱化学物質(EDCs: ビスフェノール類、パラベン類、トリクロサン、トリクロカルバン、ベンゾフェノン系化合物)の分析法を用いて、国内だけでなくアジア諸国で採取した魚類の組織中EDCsを測定し、汚染実態を明らかにする。また、すでに測定した環境水のデータと比較することで、魚類組織への移行・残留性を評価する。 3.in vitro/in vivo試験:アザラシのestrogen receptor (ER)を組み込んだin vitroレポーター遺伝子アッセイ(iv-RGA)系を用いて、POPs様物質およびビスフェノール類の転写活性化能を測定する。また、ゼブラフィッシュへの投与試験を継続し、心血管系・内分泌系(アロマターゼ誘導)・神経系(神経マーカー変動や形態・行動異常)に対する影響を観察する。
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