研究課題/領域番号 |
19H01168
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
冨安 卓滋 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (60217552)
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研究分担者 |
児玉谷 仁 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (30434468)
神崎 亮 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (50363320)
幅野 明正 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (60274841)
本村 浩之 鹿児島大学, 総合科学域共同学系, 教授 (90433086)
小針 統 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (60336328)
松山 明人 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 部長 (00393463)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水銀 / セレン / 毒性抑制作用 / 鹿児島湾 / プランクトン / 海水 / 生態系 / 海底噴気熱水活動 |
研究実績の概要 |
2019年6月に、スロベニアからミレナホルバット博士を招聘して、キックオフミーティングを開催し、今後の共同研究について打ち合わせを行った。鹿児島湾における海水及びプランクトン試料採取は、海底噴気熱水活動が存在する湾奥部と対照地点となる湾中央部において、鹿児島大学付属練習船南星丸にて4月18日、6月3日、8月5日、10月18日、11月28日及び2月17日に実施した。(8月と2月は、悪天候のために湾中央部での試料採取は行えなかった。)また、南星丸から網を出し、魚試料の採取を行った。調査では、各地点においてCTDロゼット式採水器を用いて、pH、溶存酸素量、水温の鉛直変化を追跡しつつ、深度別に海水試料を採水した。テフロンボトルに入れて持ち帰った海水試料を用いて、原子状水銀、反応活性水銀の測定を測定したのち、0.45 umのメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、懸濁物質中水銀及び溶存態総水銀を測定した。プランクトン試料は、目開き0.1 mm のネットをセットした開閉式プランクトンネットを用いて採取した。湾奥のSt.2では、pHの鉛直変化を確認し、海底噴気熱水活動の影響を受けている層と受けていない層別に採取を行った。採取したプランクトン試料は、冷蔵して持ち帰り、サイズ分けを行わないall試料、また、>0.5 mm、0.5 - 0.2 mm、0.2 - 0.1 mm、< 0.1 mmにサイズ分けした試料を凍結乾燥し、有機水銀濃度と無機水銀濃度及び総セレン濃度と総水銀濃度の測定に用いた。魚試料は、筋肉部を切り取り凍結乾燥後、粉砕して測定用試料とした。イワハダカ、ヨウジエソ、キュウリエソなどの小型魚類は解体が困難だったため、そのまま凍結乾燥して粉砕して試料とした。魚類試料は、総セレン濃度と総水銀濃度を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度躍層が発達して海水の上下混合が妨げられる夏季に湾奥の若尊カルデラ内の水深約140 m以深でpHの明らかな低下が確認された。また、それに対応して、水銀化学種の濃度が上昇した。プランクトン中水銀濃度を見ると、all試料の総水銀濃度は、St.2上層では0.064±0.018 mg/kg (n=5)、St.2下層では0.515±0.595 mg/kg (n=5)、St.12では0.061±0.022 mg/kg (n=4)であった。全採集月でSt.2下層の総水銀濃度が高いことが示された。St.2下層がその上層やSt.12と比べ総水銀濃度が高いことから海底熱水噴気孔の影響によりプランクトン中の水銀濃度が上昇したと考えられる。全地点の総水銀濃度に占める有機水銀濃度の割合はall試料の平均で40±17% (n=14)、>0.5 mm試料で39±20% (n=14)、0.5-0.2 mm試料で46±18% (n=12)、0.2-0.1 mm試料で41±24% (n=13)、<0.1 mm試料で13±9.2% (n=12)となった。 鹿児島湾の生体試料中の総水銀濃度の平均値は、中・大型魚類で1.48±1.74 mg kg-1、小型魚類で0.14±0.12 mg kg-1、プランクトンで0.14±0.27 mg kg-1であった。食物連鎖の上位へ行くほど総水銀濃度も大きくなっており、水銀の生物濃縮が示された。一方で, セレン濃度は中・大型魚類で1.5±1.7 mg kg-1、小型魚類で1.4±0.51 mg kg-1、プランクトンで2.0±1.1 mg kg-1であり、同程度のセレン濃度であることから、セレンの生物濃縮は示されなかった。このことから、生物の水銀とセレンの取り込みや蓄積の仕方には種による違いがある可能性が示唆された。以上のように、概ね計画通りに、研究を遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、引き続き鹿児島湾における調査を継続して、海水、プランクトン、魚類に関するデータを集積することになる。昨年度の研究において、生物中のセレン濃度は食物連鎖の上位、下位の間で大きな差が見られないことが示されたことから、セレンの動きを追跡する必要性が増している。今年度は、水素化物発生原子吸光法の高感度化を検討するとともに、ICP-MSを導入して、海水中セレンの直接定量を試みる予定である。また、霧島地区など鹿児島県内の地熱地帯において熱水を採取し、そこに含まれるヒ素、アンチモン、セレンの測定を試み、熱水噴気孔からのこれら元素の供給について考察を試みる。 さらに、鹿児島湾以外の海域における水銀とセレンの分布についても、データの収集を開始する。まず、重要な調査地域として、水俣湾及び八代海を予定している。ここでは、水銀が工業活動によって放出されており、火山活動によって水銀が放出されている鹿児島湾と比較することで、新たな知見が得られると期待できる。また、スロベニアやフィリピンなどにおける調査に向けて、研究協力者と密に連絡を取り、調査体制の構築など準備を進める。
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