研究課題/領域番号 |
19H01171
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 伸哉 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70261287)
|
研究分担者 |
津田 真寿美 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (30431307)
高阪 真路 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (00627119)
前仲 勝実 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (10322752)
黒川 孝幸 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (40451439)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | バイオマテリアル / ポリマーハイドロゲル / がん幹細胞 / リプログラミング |
研究実績の概要 |
(研究の骨格)本研究は、研究代表者が高機能ポリマーハイドロゲルを用いることで、極めて短時間にがん細胞のリプログラミングを誘導して、がん幹細胞を同定する方法を見出したことにはじまる。これは従来のがん幹細胞分離同定法とは異なり、がんの種類を問わず24時間以内にがん幹細胞を同定することができる画期的な方法であり、本研究では、この高機能ゲルのどのような物理学的因子ががん細胞の遺伝子発現変化を短時間で誘導するのかについて検討し、高機能ゲルを基盤としたがん幹細胞診断法を開発し、さらにがん幹細胞標的治療薬を大規模スクリーニングにより創出するものである。 (具体的な実績)申請書においてR2年度は2つの目標を設定した。1番目は「がん細胞リプログラミングを誘導する物理的因子の解明と臓器別人工がん幹細胞ニッシェの開発」である。研究代表者らは高機能ゲルの中でも、ダブルネットワークゲル(DNゲル)の構成成分であるpoly-2-acrylamido- 2-methylpropanesulfonic acid (PAMPS) ゲルに着目し、弾性率や荷電状態を変化させることで最も効率的にがん幹細胞性を誘導させ得る条件を明らかにした(論文作成中)。また、2つ目の目標である「高機能ゲルによるエピジェネティカルなゲノム制御機構(メカノメモリー)の探索」は、poly N-(carboxymethl)-N, N-dimethyl-2-(methacryloyloxy) ethanaminium (PCDME)ゲル上で培養したがん細胞を通常培養皿に移して一定時間培養すると幹細胞性が亢進したことから、PCDMEゲルによるがん細胞のリプログラミングの過程でエピゲノムの変化が誘導されることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に記載した各研究の進捗は以下の通りである。 ①「がん細胞リプログラミングを誘導する物理的因子の解明と臓器別人工がん幹細胞ニッシェの開発」 研究代表者らはDNゲルの構成成分であるPAMPSゲルに着目し、クロスリンカーの濃度を変えることで7段階の異なる弾性率を有するゲルを創出してがん細胞を培養すると、生体内腫瘍組織と同程度の10 kPaの弾性率を有するゲルにおいて最もがん幹細胞マーカーの発現が亢進することを明らかにした(論文作成中)。一方、ゲルの荷電状態について、負電荷のPAMPSモノマーに正電荷を有するモノマーを異なる配合比で混合して荷電状態の異なるゲルを作製して乳がん細胞を培養すると、正電荷を有するゲル上でがん幹細胞性マーカーの発現量が有意に亢進し、細胞の代謝が大きく変化することが明らかとなった。 ②「高機能ゲルによるエピジェネティカルなゲノム制御機構(メカノメモリー)の探索」 PCDMEゲル上で培養したがん細胞を通常培養皿にに移して一定時間培養すると、幹細胞マーカーの発現が亢進し、ヒストンのメチル化やアセチル化状態が大きく変化することが明らかとなった。この結果は、PCDMEゲルによるがん細胞のリプログラミングの過程でエピゲノム変化が誘導されることを示唆しており、現在、詳細な分子メカニズムを解析中である。 尚、ゲルによって誘導されるがん幹細胞の性状解析のためのハイドロゲル装着6ウェルプレートの開発はほぼ完成段階まで到達しており、実用化に向けた準備が整いつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の結果を発展させ、今年度は以下の主として「がん幹細胞特異的治療薬のスクリーニング」の研究に取り組む。 poly-2-acrylamido- 2-methylpropanesulfonic acid (PAMPS) とpoly-N, N’- dimethylacrylamide (PDMAAm)から構成されるダブルネットワークゲル(DNゲル)は検討した8種類のがん腫・肉腫について24時間以内にがん幹細胞を誘導する。これらの細胞を用いてがん幹細胞を特異的に死滅させる薬剤を大規模スクリーニングする。予めがん細胞にSOX2プロモータ下でドライブされるGFP蛍光蛋白を組み込み、非がん幹細胞のviabilityを変えることなくGFP量が最も減少する薬剤を探索する。北大薬学研究院の創薬研究教育センターには核酸誘導体、キナーゼ阻害剤、糖鎖誘導体、天然物、既存薬など約1,600の化合物からなるオリジナルライブラリーが準備されている。現在予備検討として、約500種の薬剤ライブラリーのスクリーニングを行ったところ、高機能ゲルで誘導された膀胱癌幹細胞を特異的に48時間で死滅させる薬剤を同定することが可能であり、大規模解析の準備は整っている。
|