研究課題/領域番号 |
19H01174
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関谷 毅 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (80372407)
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研究分担者 |
荒木 徹平 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (10749518)
植村 隆文 大阪大学, 産業科学研究所, 特任准教授(常勤) (30448097)
野田 祐樹 大阪大学, 産業科学研究所, 特任助教(常勤) (30784748)
和泉 慎太郎 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (60621646)
吉本 秀輔 大阪大学, 産業科学研究所, 招へい教員 (80755463)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フレキシブルエレクトロニクス / 機械学習 / 生体信号アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究では、関谷らの研究グループが世界に先駆けて開発した【フレキシブル生体信号計測シート】を用いて、ヒトの「血流ネットワーク」、「血管硬度」を定量的にワイヤレス計測できる“パッチ式血流センサシステム”を開発する取り組みである。具体的には、体に貼り付けるだけで、「多点の脈波」を同時計測し、脈波伝搬速度より、「血管硬度」、「血流ネットワーク」を計測できる“フレキシブル多点脈波センサシステムの開発”である。このシステムより得られる「血流ビッグデータ」の解析アルゴリズムを情報工学の観点から開発し、血流情報を“可視化、自動診断”する。
本研究開発は3年の計画で実現する予定であり、初年度は脈速度、血圧等、血管健康診断可能な脈波センサの基盤技術開発を目的として、以下の二つの研究開発項目に取り組んだ。 1.圧電脈波センサの構造最適化、2.信号処理回路開発とワイヤレス化 ヒトの脈波はおよそメートル毎秒の速度を持つとされることから、計測サンプリング周波数はkHzを必要とする。さらにヒトの表皮は柔らかく、複雑な形状であることから柔らかい共有誘電性ポリマーを振動から電気信号へ変換するセンサ部(トランスデューサ)として選定した。これを独自のナノ細線構造形成プロセスにより薄膜、柔軟、かつ高感度なトランスデューサに成型することに成功し、脈波に対応する的確な振動が得られることを確認した。さらに開発の重点を体動ノイズとの分離アルゴリズム開発とした。ここでは機械学習の手法を用いて、周波数領域の独立成分分析アルゴリズムを構築することで、脈波と体動ノイズや汗など電極ずれの影響を排除できることを突き止めた。通信においては既存のBLEを用いることで、所望の計測精度が得られることを確認した。初年度までに、装着感のない高感度な脈波計測を高い信号ノイズ比で実現できることを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年間の取り組みである。初年度には従来の脈波センサと比べて信号品質(信号とノイズの比率)が高いトランスデューサの取り組みを行い、独自の材料とプロセス技術により目標とする数値を得ることができた。今後、信号処理アルゴリズムを構築する上で、ノイズ除去は極めて重要な取り組みであるが、初年度の高品質トランスデューサの成果により、ノイズは想定以上に小さくすることができる感触を得ることができた。ワイヤレス通信後においても、その品質は十分に保たれていることに加えて、実際に、一般的な独立成分分析のアルゴリズムによりきれいな脈波を体動ノイズから取りだすことができた。初年度においては、当初の目的通りの成果を得ることができたので、次年度以降の取り組みを予定通り進めていくことができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、3年計画により研究開発を進め、「センサネットワークを活用した血管関連疾患の兆候診断システム」を実現する予定である。単なるデバイスの開発、材料の開発ではなく、システム構築・情報可視化アルゴリズムの開発を経て、医師に意見をいただけるレベルにまでシステムをくみ上げる。初年度までに、予定通りのトランスデューサ、信号処理技術、ワイヤレス通信の要素開発を終えることができたので、2年間においても当初予定通りの取り組みを行う。
具体的には、2年目に、脈波データ解析技術の開発とノイズキャンセリングアルゴリズムの開発を目指す。体動ノイズと脈波信号の分離においては、従来の独立成分分析が有効であることを見出している。その一方で、汗など皮膚表面が濡れた際に起こる振動変化やトランスデューサの位置ずれにおいて脆弱であることが分かった。2年目はこの対応策を電極材料の選定や加工、そして信号解析手法のアプローチから検討する。
この取り組みにより、装着感なく違和感なく日常的な脈波ログを取得可能な基盤を構築する。3年目には、“脳波と脈波の相関性を詳細に評価”できるレベルにまでシステムを最適化する。その相関を基に家庭での、簡単な脈波センサチェックで循環器系や脳の病理兆候まで知らせてくれる“ご家庭内脳ヘルスケアシステムを提供する基盤技術”を構築する。
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