研究課題/領域番号 |
19H01175
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和田 成生 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70240546)
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研究分担者 |
渡邉 嘉之 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (20362733)
武石 直樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (30787669)
大谷 智仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (40778990)
伊井 仁志 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (50513016)
石田 駿一 神戸大学, 工学研究科, 助教 (80824169)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳循環 / 血流シミュレーション / 側副血行路 / 脳微小循環 / 血管網構造 / 脳脊髄液流れ / 正常圧水頭症 / MRI計測 |
研究実績の概要 |
前年度までに構築してきた全脳血液循環モデルをベースとして,脳血流分配に及ぼす側副血行路の影響,脳脊髄液流れの計算力学解析,脳微小循環の血流解析を行った. 脳表動脈網の吻合構造である側副血行路を考慮した全脳スケール動脈血管網の数理モデルを構築し,血流分配に関する側副血行路の生理学的意義について検討した.末梢抵抗を考慮した0次元血流計算から,全脳動脈網における血液の流量分配を表現し,急性脳梗塞時に側副血行路による梗塞部位への血流再分配の度合を調べ,側副路による血流回復の生理的な範囲について知見を得た. 脳脊髄液のMRI計測における渦電流オフセットの自動除去フィルタを開発し,頭部MRI計測に基づき脳脊髄液流れの駆動および流動特性を調べた.健常者10名と正常圧水頭症10名について,心拍に同期して拍動する脳脊髄液流れの連続的な時空間分布を比較した.各患者の頭部MRI計測から得られた脳室形状と脳脊髄液の速度場の時系列データに基づき,脳脊髄液流れの数値流体力学解析を行った.その結果,正常圧水頭症患者において,脳室の拡大および脳脊髄液の流量増加が生じ,健常者と比較して脳室間での脳脊髄液の混合が強く促進されることを見出した. 脳微小循環の解剖学的構造の特徴を表現する数理モデルを構築し,微小循環系における血流分配と酸素輸送の度合を評価した.その結果,脳微小循環モデルの構造を計測結果と一致させても,脳実質の深さ方向における血流分配や酸素濃度分配の度合は実際と大きく異なることが分かり,脳微小循環の構造と機能を理解する上で新たな知見が得られた.さらに,微小循環内の血球流動度と酸素輸送との関係解明に必要な流体構造連成解析の数値不安定性の原因を特定し,その問題を解決した.その結果,高ヘマトクリット条件におけるマウス脳微小血管の実形状モデルを用いた血球流動と酸素輸送解析を実施することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに構築してきた脳血液循環系および脳実質系の形態と解剖学的構造を詳細に再現した連続体モデルを基盤として,全脳循環代謝動態を理解するための計算力学解析を進めることができた.これにより,全脳レベルの血流分配に関する側副血行路の生理学的意義,微小循環の構造が脳実質内の血流分布および酸素輸送に及ぼす影響,脳脊髄液の脳室内の混合に関して新たな知見を得ることができた.さらに,微小循環における赤血球の流動と酸素輸送解析において課題となっていた数値不安定性に関しても,その原因を明らかにして解決の糸口を見出すことができた.研究分担者となっている滋賀医科大学との共同研究も順調に進んでおり,実際の患者のデータを用いた解析が進んでいる.特に,昨年度に開発したMRI機器内部の渦電流に起因するバイアスノイズ自動的に除去する補正手法を用いて,複数の正常圧水頭症患者のMRI計測データの補正を行い,これまでに得られなかった低速度領域の特性を見いだしつつある.また,計算力学解析と組み合わせることで,健常者と正常圧水頭症の患者における脳脊髄液の流動特性の相違を明らかにすることができた.このように,本研究で取り組んでいる計算力学解析に立脚した個別化医療支援に向けても順調に研究が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,全脳レベルの血液循環モデル,脳微小循環モデル,脳間質・脊髄液循環モデルを用いて個々の特性を明らかにしていくとともに,それらを統合した物理シミュレータを開発して,全脳循環代謝動態の解明を目指す.脳動脈の個別化モデルを用いた大規模血流解析では,脳血管の周囲腔内の流れと物質輸送を引き越していると考えらる脳血管の脈動を考え,その影響を調べる.また,実際の医用画像に基づいた脳梗シミュレーションを行い,側副血行路が障害の及ぶ範囲や回復度に及ぼす影響を明らかにしていくとともに,脳微小循環モデルと連立させ,酸素輸送等の脳機能に及ぼす影響についても検討する.さらに,脳実質を多孔質弾性体と仮定する数理モデルを構築し,血管から滲み出る間質液の流れとそれによる物質輸送解析,血圧変動により変形する脳実質とそれにより駆動される脳脊髄液流れを解析することで,血液循環,脳間質液流れ,脳脊髄液流れの物理的連立関係を明らかにする.また,MRIの計測速度場について,質量保存および運動量保存則を満足する速度場の補間方法を検討する.問題設定として,速度場を非圧縮粘性流体のナビアストークス流れを仮定し,計測速度場と,補正後の速度場との二乗誤差を最小化する境界条件の数理最適化問題を考え,MRIによる速度計測の向上を目指した一連のフレームワークを構築する.こうした計測データと計算力学解析を統合することで,水頭症の発症および進行による脳脊髄液流れの特徴的変化を評価するための流体力学的指標を検討するとともに,多数症例について同様の解析を行い,流れの特徴を統計的に明らかにする.
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