研究課題
研究代表者らは、マウスの線維芽細胞に2種類の転写因子を導入することで、肝細胞の性質をもつ細胞(induced hepatocyte-like cell: iHepC)を作製することに成功した。こうした「ダイレクトリプログラミング」による細胞運命転換法は、将来の医療展開が強く期待される技術の1つである。そこで本研究では、新しい転写因子の組み合わせを用いて、高い増殖能と肝細胞・胆管上皮細胞への分化能を有するヒト誘導肝前駆細胞(induced hepatic progenitor cell: iHepPC)を作製する。また、ヒトiHepPCの分化誘導法の開発や分子機構の解明、並びに治療効果の検証等を行うことで、肝疾患患者に対する新しい移植医療の実現や、個人レベルで薬剤の効果や毒性を評価できるシステムの基盤構築を目指す。これまでに行った研究では、新規の転写因子セットをヒトの臍帯静脈や末梢血由来の血管内皮細胞に導入することで、長期培養による安定的な増殖が可能なiHepPCを作製することに成功した。作製されたヒトiHepPCは三次元培養下で肝・胆管組織様構造体を形成し、それぞれ機能的な肝細胞と胆管上皮細胞へ分化・成熟する能力をもっていた。また、ヒトiHepPCから分化した肝細胞を致死率の高い急性肝不全モデルマウスの肝臓へ移植したところ、マウス肝臓内でヒト肝実質組織を再構築して機能し、高い救命効果を発揮することも判明した。一方、分子メカニズムの解明に向けた研究では、マウスiHepCへのダイレクトリプログラミングを誘導する転写因子の挙動を詳しく解析するとともに、線維芽細胞が肝細胞の運命を獲得する過程で生じる遺伝子発現変化やクロマチン状態変化、エピゲノム状態変化などを統合的に解析した。その結果、転写因子のDNAへの結合から始まる一連のダイナミックな細胞状態変化の全容を解明することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに行った研究では、ダイレクトリプログラミングの手法を用いて、高い増殖能と肝細胞・胆管上皮細胞への分化能を有するヒトiHepPCを臍帯静脈や末梢血由来の血管内皮細胞から作製することに成功した。また、マウスiHepCを用いてダイレクトリプログラミングのメカニズム解明を試みた結果、導入した転写因子のDNA結合から始まる一連のダイナミックな細胞状態変化の全容を解明することができた。以上から、ダイレクトリプログラミングによるヒト肝前駆細胞直接誘導法の確立とその応用の達成に向けておおむね順調に研究が進んでいるといえる。
ヒトiHepPCの医療応用実現に向け、染色体を傷つけない手法を用いたヒトiHepPCの誘導法や血液細胞からのヒトiHepPC誘導法を確立すべく、誘導法の改良や誘導した細胞の機能解析を引き続き進める。また、肝不全や肝線維症に対するヒトiHepPC移植の治療効果を引き続き詳しく検証する。さらに、マウスiHepCの解析系を応用し、ヒトiHepPCの誘導メカニズム解明に向けたオミクス解析も進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 9件) 図書 (5件) 備考 (1件)
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