研究課題/領域番号 |
19H01180
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
辻 孝 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (50339131)
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研究分担者 |
池田 悦子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 客員研究員 (20509012)
武尾 真 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (50782116)
美島 健二 昭和大学, 歯学部, 教授 (50275343)
田中 準一 昭和大学, 歯学部, 講師 (40710166)
渡辺 亮 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (60506765)
桐田 忠昭 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70201465)
竹内 昌治 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (90343110)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 器官発生 / 器官運命決定 / 成体幹細胞 |
研究実績の概要 |
研究項目1) 器官発生運命決定メカニズムの解明 外胚葉性器官発生の複数のステージにおいて網羅的遺伝子発現解析を実施し、各器官において器官形原基形成期前後に遺伝子発現プロファイルが大きく変化することが明らかになった。また、前プラコード期には口腔領域器官と皮膚領域器官において、発現プロファイルが明確に異なることが明らかとなった。現在、より詳細な解析を進めると共に、器官運命決定遺伝子の探索を継続している。 2) 成体幹細胞のDirect Reprogrammingによる多様な器官再生誘導の実証 成体マウス由来毛包上皮性幹細胞の生体外培養系を確立し、長期間の毛包器官再生に必要な幹細胞集団を明らかにした。また、天然唾液腺由来の間葉と張り合わせることにより、培養毛包上皮性幹細胞から唾液腺の誘導が可能であることが明らかとなった。現在、毛包幹細胞への遺伝子導入方法の最適化を行い、成体幹細胞からの多様な器官再生誘導の検証を継続している。 3) Direct Reprogramming Organogenesisによる新規器官再生方法の概念実証 発生ステージによる口腔粘膜の被器官誘導能の差異を明らかにするため、胎児の天然唾液腺間葉との張り替え実験を行い、発生ステージが進むにつれ唾液腺形成頻度が低下するとともに誘導までの時間も長くなり、出生後は誘導能を失うことが明らかとなった。一方、唾液腺誘導因子の導入による唾液腺誘導では、新生児口腔粘膜からの唾液腺構造の誘導が可能であることが明らかとなった。さらに、胎児および新生児口腔粘膜と、胎児頭部皮膚から唾液腺誘導因子の導入により誘導された唾液腺を、唾液腺欠損モデルマウスへ同所的に移植することにより、味覚刺激に反応した唾液腺の分泌が認められたことから、器官誘導因子の導入による機能的な器官再生が可能であることが明らかとなり、新規器官再生方法の概念が実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、研究項目1)では複数の外胚葉性器官の発生段階における遺伝子発現プロファイルの解析、および器官運命決定因子の特定を目標とした。複数の外胚葉性器官の発生過程における網羅的遺伝子発現解析からから器官運命決定期に加え、器官形成領域決定期および器官誘導期と予想される発生ステージが特定された。現在、これらの変動遺伝子の遺伝子間相互作用、および上流解析などの詳細な解析を行っている。 研究項目2)では、マウス成体毛包由来培養毛包上皮性幹細胞が毛包以外へ発生運命を転換しうるかの検証を目的とした。培養毛包上皮性幹細胞を天然唾液腺間葉と組み合わせることにより、生体外において発生過程の天然唾液腺と同様の組織構造とマーカー発現パターンを持つ唾液腺様の形成が認められた。この結果は培養毛包上皮性幹細胞において器官運命転換が可能であることを示しており、本年度の目標は達成された。 研究項目3)では複数の発生段階、組織からの器官運命転換の概念実証を目的とした。多様な発生ステージの口腔粘膜に唾液腺誘導因子を導入したところ、発生が進むにつれて唾液腺誘導効率が低下するとともに誘導により長い時間要するが、新生児までは唾液腺誘導が可能であることが明らかとなった。また、唾液腺誘導因子を導入により、胎児由来皮膚組織からも唾液腺の誘導が可能であることが明らかとなった。さらに、これらの誘導唾液腺は、同所性移植することにより機能的な唾液腺の再生が可能であることが示されたことから複数の発生段階、組織からの器官運命転換の概念が実証され、計画通りの進捗が得られた。このため、当初の計画を前倒し、唾液腺誘導因子の導入による器官再生が、器官運命転換であるか、器官の再誘導であるか明らかにするため、唾液腺誘導後の組織について遺伝子発現プロファイル変化の解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の方針に従い研究を推進する。 研究項目1)は当初の計画に従い、器官内および器官間の発生過程における遺伝子プロファイルの解析をさらに進める。遺伝子解析の結果得られた候補遺伝子について機能解析を行い、器官形成場形成、器官運命決定、および器官誘導に関与する遺伝子を明らかにする。これまでの解析の結果、当初目的とした器官運命決定遺伝子だけではなく、器官形成場形成および器官誘導に関わると予想される遺伝子発現プロファイルも明らかになった。これらの過程は器官形成過程全体を理解する上で重要であるため、当初予定していた器官運命決定のエピジェネティック制御機構および分子間相互作用の解析予定を変更し、器官形成場形成メカニズムおよび器官誘導メカニズムを中心に解析を行う。 研究項目2)については、研究項目3)の唾液腺誘導遺伝子による培養毛包上皮細胞からの器官誘導に集中して研究を推進するとともに、研究項目1)で明らかになる器官運命決定因子を用いた器官誘導の可能性について検証を行う。さらに、誘導された器官種に応じた培養条件の検討を進めると共に、生体外立体培養や形態形成に必要な培養方法を開発する。 研究項目3)に関しては、昨年度に引き続き、運命転換を誘導した組織の遺伝子発現プロファイルと研究項目1)で得られたデータとの比較解析を行うことにより、運命転換メカニズムの解析を進める予定である。また、胎児由来および新生児由来の口腔粘膜または胎児皮膚からの唾液腺誘導方法、および誘導唾液腺の機能解析について、論文化を行う。
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