研究実績の概要 |
今年度は昨年度の繰越課題として、本研究においてキリスト教的ストア主義と仮説的に呼称している思潮を代表する思想家の一人リプシウスの一次資料において、古代ストア主義のなかでもとりわけセネカの諸著作『賢者の不屈について』『魂の平静について』『摂理について』に表明された「不屈(恒心 constance)」に関する諸言説がいかに受容され、かつ、キリスト教的な観点からいかに修正されたのか、という問いの解明に傾注した。とりわけリプシウスの『精神の不屈について』(1584年)のラテン語原文とフランス語訳(Classiques Garnier社版)の分析を継続した(第1巻については前年度に行ったので、今年度は第2巻を集中的に分析した)。分析に際しては関連する二次文献の検討もあわせて、主体は自己といかなる内在的関係をいかなる手段で取り結ぶのか、という道徳論的人間学に関する問い(古代ストア主義の諸言説のうち、アパテイア論、不屈の精神、徳論、精神の諸能力の指導、人生の儚さと死への怖れ、「退却」という精神の修練、等々)に関わるトポスに注目した。さらにキリスト教的な修正に関しては、1)摂理・宿命と自由意志という論点について、アウグスティヌス『神の国』第5巻ならびにボエティウス『哲学の慰め』第4巻・第5巻の影響を強く指摘しうると考えられるため、そのラインでの比較対照を開始した。ついで、2)「慰め(consolatio)」についても、それは古代ストア主義的主題とは言い難く、むしろキリスト教的であるとする先行研究(Jacqueline Lagree, La vertu stoicienne de constance, in Le Stoicisme au XVIe et au XVIIe siecle, Paris, 1999, p.106(アクサン記号省略))があるため、その批判的検討も開始した。
|