研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、17世紀初頭から中葉までのヨーロッパにおける《新ストア主義》の展開は、リプシウス、デュ・ヴェール、そしてシャロンに代表される《キリスト教的ストア主義》に対する多種多様な陣営からの応答の軌跡として理解できるのではないか、という仮説の検証である。そのためには、まず《キリスト教的ストア主義》それ自体の具体像を精緻に描出する必要がある。そこで四年目にあたる2022年度は、シャロン『知恵について』(1601年;1604年)において、古代ストア派の諸言説がキリスト教的な観点からどのように修正されたのか、という問いの解明に傾注した。とりわけ、「真の知恵とは、理性の命に従う、意志のまっすぐで堅固な態勢である」(II,3,12)とするシャロンの思想のうちに、各人に本来的に帰属するものとして古代ストア派において重要な意味を与えられた「意志」との近似性を分析することが主軸となった。ただし、シャロンにおける「意志」論は、その一方で、16世紀半ば以降、カルヴィニズムから出て個人主義・神秘主義に傾倒するオランダのキリスト教思想家(「教会なきキリスト者」)がおもに奉じた「精神において人は一切を判断し、誰からも判断されない」(パウロのコリント信者への手紙)という文言に集約される人間論に定位するため、《キリスト教的ストア主義》の典型例をなすものであることが理解された。このような理解を得たことが、今年度の研究成果の意義である。
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