研究課題/領域番号 |
19H01185
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
稲原 美苗 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00645997)
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研究分担者 |
松岡 広路 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (10283847)
津田 英二 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (30314454)
梶谷 真司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50365920)
高橋 綾 大阪大学, COデザインセンター, 特任講師(常勤) (50598787)
池田 喬 明治大学, 文学部, 専任准教授 (70588839)
本間 なほ (ほんまなほ) 大阪大学, COデザインセンター, 准教授 (90303990)
村山 留美子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (20280761)
中川 雅道 神戸大学, 附属学校部, 附属中等教育学校教諭 (00842923)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 哲学プラクティス / 当事者研究 / 哲学対話 / マイノリティ / 現象学 / 社会教育 / 学際研究 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、ジェンダー、セクシュアリティ、エスニシティ、貧困、障害、疾病、加齢など社会の中でマイノリティの境遇に立たされている人たちの対話から経験を記述し、彼らの支援を改善することを目的とする。そのため、本年度は、以下の5つの対話実践・調査を遂行した。
1)女性支援活動をしているNPO法人の関係者向けの対話実践と自己表現活動 2)障害者、外国人、シングルマザーなどの当事者と市民との対話活動 3)障害をテーマにした子どものための哲学(P4C)4)東日本大震災(主に福島県南相馬市と宮城県仙台市)の被災地訪問調査、被災者との対話実践への参加 5)イタリア・トリエステでの哲学プラクティスおよび地域精神保健(精神障害者のための対話実践)の調査と実践者との研究交流
以上、研究代表者・分担者各自が実践しているマイノリティ当事者や子どものための哲学対話実践を継続するとともに、社会教育分野での哲学プラクティスの新たな可能性を示した。東日本大震災の被災地(主に福島県南相馬市、浪江町、飯館村、宮城県仙台市)の社会教育施設を訪問し、現地の住民と対話を行った(2019年8月31日~9月1日)。特に、マイノリティ当事者と市民のための対話イベント(2020年1月12日)を、関東大震災と阪神淡路大震災の被災地をめぐる哲学対話の意義を考える研究会(新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、クローズドの研究会となった。2020年2月23日)を開催した。また、Pacific Rim International Conference on Disability and Diversity (アメリカ・ハワイ州)にてポスター発表を行い、各地域の研究者・実践者と意見交換するとともに、その他の分科会にも積極的に参加して世界各地の実践者・研究者と研究交流を行い、有益な知見を得た(2020年3月1-2日)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者の中川雅道は勤務校で対話実践(P4C)を授業に取り入れてきた。本年度は、障害者に対する意識変容に関するデータを生徒たちの自己評価シートなどから収集し、研究成果として発表した。また、研究代表者の稲原美苗もこの実践に障害当事者として実践に関わり、密接な高大関係と研究環境を構築できた。 社会教育の現場での哲学対話実践は、本研究に関わるほとんどの研究者が実践し続けている。特に、研究分担者の梶谷真司と稲原は、市民向けの哲学カフェやワークショップなどを日本各地の社会教育施設で開催した。稲原は、神戸大学のサテライト施設にて、ゼミ生が主体になって企画・運営している哲学カフェを続けており、この活動についての研究成果を学会で報告した(2019年8月)。特に、梶谷と稲原が企画・運営した哲学対話イベント(2020年1月)には多くの市民が参加した。これらの活動を通じて、マイノリティ当事者が「生きづらさ」を語ることで、市民同士の対話も活発化することが明らかになった。 研究分担者の高橋綾と稲原が企画・運営し続けてきた女性支援NPO法人のグループでの哲学カフェをさらに展開させて、ライティングの講師を招いて自己表現のためのZine(同人誌)を制作した。高橋とほんまなほは、2020年2月にイタリア・トリエステを訪問し、精神保健サービスなどについて調査し、現地の哲学プラクティスの実践者たちとセッションを設け、研究交流を行った。精神障害当事者をエンパワーするために哲学対話がどのように使われているのか視察した。 最後になったが、研究分担者の村山留美子と稲原が2019年の夏に東日本大震災の被災地を視察し、現地での対話にも参加した。東北と神戸を結ぶ対話イベントを企画した。残念ながら、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、クローズドな研究会になったが、「被災地をめぐる哲学対話」(2020年2月)を開催した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度においてそれぞれの研究者が取り組んでいる実践や調査は順調に進んでいるので、二年目以降も同様にマイノリティ当事者のエンパワメントという課題を果たすために研究・実践を継続していく。初年度において十分に達成できなかったが、実践や調査の言語化(研究成果発表など)、マイノリティ当事者の経験の記述に注力していく。特に、本研究を広く社会教育、社会の現場に還元することを目的としている点で、哲学プラクティスや対話の持つ得るを整理し、理論的な考察を深めることを重点化する。
2020年度に研究発表を予定している学会を2つ挙げておく。2020年7月にロシア・サンクトペテルブルクで開催予定である16th International Conference on Philosophical Practiceでの国際学会発表を行う(研究代表者と分担者数名)。さらに、2020年度は、大阪大学で哲学プラクティス学会が開催される予定であり、研究分担者である高橋綾とほんまなほが学会開催の企画・運営に携わっている。これらの学会で研究発表をし、研究交流をし、今後の本研究プロジェクトのあり方について検討を重ねる必要があると考える。
さらに視野に入れるべく浮上した課題として、当事者のエンパワメントを促進するための哲学対話の実践・研究がある。近年、当事者研究やオープンダイアローグなどの実践には医療・福祉現場でも期待が高まっている。そこに、哲学プラクティスをどのように位置づけるのか、エンパワメントのための対話実践の研究は急務であると考えられる。5年間のプロジェクトの初年度が終わったところであるが、これまでの実践や研究を生かして哲学的当事者研究や哲学対話のエンパワメント効果についてまとめることを検討することにも一理ある。状況を見ながら、適切に対応していく。
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