研究課題/領域番号 |
19H01192
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
天野 恭子 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (80343250)
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研究分担者 |
伊澤 敦子 国際仏教学大学院大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (80724872)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古代インド / ヴェーダ / マイトラーヤニー・サンヒター / 写本 / サンスクリット |
研究実績の概要 |
本年度、1)写本校訂、2)内容の解釈、ドイツ語訳、3)マイトラーヤニー・サンヒターの成立背景に関わる研究、の3つを柱に研究を進めた。 1)写本校訂:写本の下読みにポスドク研究者2名の協力を得て、下読みは全体の4分の3を終了した。校訂に関しては、難読箇所が多くあるため、2)の内容解釈と同時に進めているが、全体の半分近くまで進んでいる。写本における箇所の同定と、章ごとのファイル分け等の下準備が完了し、研究代表者および研究協力者も写本の扱いに習熟したため、作業は非常に順調に進行している。 2)内容の解釈、ドイツ語訳:研究分担者の伊澤敦子と共に、本年度も勉強会を開催し(計5回)内容の読解を進めた。これは、マイトラーヤニー・サンヒター全4巻のうち、内容的に非常に重要な第3巻の前半である。また第3巻の後半は、天野が単独で読み進めている。読解できた部分について、言語学的な注釈を付したドイツ語訳を整備している。訳出用のファイルに、学生アルバイトの協力によって、二次文献(先行研究)から得られる情報や、マイトラーヤニー・サンヒター内での参照情報を、可能な限り埋め込むことができたため、ドイツ語訳整備の速度が上がっている。 3)マイトラーヤニー・サンヒターの成立に関わる研究は、2)の研究が進むにつれ考察が深まっている。その現時点での成果として、本年度は天野が研究代表者として主導する本研究とは別のプロジェクト「データ駆動型科学が解き明かす古代インド文献の時空間的特徴」のワークショップ「古代文献の言語分析から読み解く社会背景のダイナミズム」において発表した。また、マイトラーヤニー・サンヒターの成立背景をテーマに、2021年1月開催予定であった国際サンスクリット学会において特別部会を企画していたが、当該学会は2022年1月に延期になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上の1)写本校訂、および2)翻訳を完成させる元となるファイルの整備がすべて終わり、そこにマイトラーヤニー・サンヒター内での関連個所の情報や、二次文献(先行研究)から得られる情報を可能な限り埋め込む作業もほぼ完成した。これにより、難読箇所について、マイトラーヤニー・サンヒター内での関連個所(同じ単語や同じ構文のすべての用例など)を突き合わせ、二次文献から得られる情報もふまえて検討し、検討の結果を直ちにすべての箇所に反映させることが可能になった。これは、従来校訂や翻訳作業を迅速に進めることの障害となっていた、難読箇所ごとに、マイトラーヤニー・サンヒター内や同時代の一次文献(原典)、および二次文献(先行研究)の関連個所を探し出して突き合わせることの煩雑さ、さらに、同じ難解語が再び出現した際に、すでに行った考察を遡ってチェックする手間、等を一掃し、効率のよい、また訳語や解釈の矛盾のない、精度の高い校訂本・翻訳の作成を促すものである。 また、写本の下読み作業が全体の4分の3程度完成し、重要な部分についてはほぼ完成したことから、一つの箇所について、写本校訂と翻訳を同時に行うことができるようになったことは、研究の速度および精度を上げるものである。これまでは、ある部分の翻訳を検討しようとしてもその部分の写本情報が未整備で写本情報を利用できなかったり、ある部分の原典校訂をする際に、参照すべき箇所や研究を探し出すことに時間がかかりすぎるため、翻訳が後回しになったり、と、原典校訂と翻訳の作業がかみ合っていなかったが、現在は遂に、この問題を解消し、両者を同時に行うという理想的な進捗を実現している。 上の3)のマイトラーヤニー・サンヒターの成立背景に関わる研究については、京都大学学内ファンドSPIRITSプロジェクト「データ駆動型科学が解き明かす古代インド文献の時空間的特徴」との協働で大きく進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
上で述べた、原典校訂本および翻訳の元ファイルの整備と、写本下読みの進捗によって、1)写本校訂と2)翻訳を、別に扱う必要がなくなった。これは本来望ましい形になったということである。今後は、1)写本校訂および翻訳、2)成立背景の研究、の2本柱で研究を行っていく。 1)写本校訂および翻訳は、読解の終わった箇所から順番に完成形を作成していく。これらはドイツ語で書かれているため、ドイツ語を母語とする専門研究者(チューリヒ大学Salvatore Scarlata, エアランゲン大学Marcos Albino, イェーナ大学Martin Kummel)に確認、校正を依頼する予定である。これら研究者と研究内容についても意見交換することも、研究の重要な一部分となる。未読箇所に関しては、現在までに確立しな手法で進捗させていく。2021年度の末までに、マイトラーヤニー・サンヒター全体の4分の3にあたる、3巻までの部分を完成させる。 2)成立背景の研究については、2021年度は、国際サンスクリット学会における特別部会「Maitrayani Samhita: Its history, background and relation to the other Vedic texts」の開催が最も大きな任務となる。本プロジェクトの中の成立背景の研究のこれまでの成果の発表の場であるとともに、同テーマに関連する世界の最新の知見を集め、今後のヴェーダ研究の新しい基礎となる、新しい仮説を提示する。本特別部会については、成果物の出版はまだ計画していないが、成果物出版の可能性を探ることも本年度の一つの課題である。上記の「データ駆動型科学(略)」プロジェクトとも連動し、マイトラーヤニー・サンヒター成立過程について、より合理的で根拠の明確な仮説の構築を進める。
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