研究課題/領域番号 |
19H01192
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
天野 恭子 京都大学, 文学研究科, 人文学連携研究者 (80343250)
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研究分担者 |
伊澤 敦子 国際仏教学大学院大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (80724872)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古代インド / ヴェーダ / マイトラーヤニー・サンヒター / 写本 / サンスクリット |
研究実績の概要 |
本研究は、古代インドの宗教文献群ヴェーダ文献のうち、儀礼解釈の最も古い記述を含むマイトラーヤニー・サンヒターの、基礎研究(原典校訂、現代語訳)を目的としている。マイトラーヤニー・サンヒターの批判校訂本としてはvon Schroeder版が存在するが、出版から130年以上を経て、現代の言語学の水準に照らして多くの訂正が必要とされる。現代語訳はマイトラーヤニー・サンヒター全4巻のうち第1巻および2巻の散文(儀礼解釈)部分のドイツ語訳が研究代表者天野によって出版されているが、その他の部分は未訳である。新校訂本および未訳部分の現代語訳は、研究史上焦眉の課題として待ち望まれている。 1)原典校訂について。、新発見の写本合計38本を2021年度までに読み終え、原文解釈を行いながら批判校訂本の作成を進めている。本年度までに、マイトラーヤニー・サンヒター全4巻のうち第1巻が完成し、第3巻の大部分についても作成した。 2)現代語訳について。マイトラーヤニー・サンヒターのうち未訳なのは、第1-2巻のマントラ部分および第3-4巻である。このうち第3-4巻の散文(儀礼解釈)部分を優先して進めている。第3巻の散文部分はほぼ読み終え、ドイツ語訳および訳注の作成を行っている。第4巻の散文部分の読解も本年度に取り掛かり大いに進捗した。 3)これらの基礎研究をもとに、マイトラーヤニー・サンヒターの成立過程、同時代の他の文献との関係、それらの背景となるヴェーダ期社会の変遷について、考察を進めた。重要な成果は、2023年1月に、第18回国際サンスクリット学会(キャンベラ、オンライン開催)において、マイトラーヤニー・サンヒターについての特別部会を開催したことである。研究代表者天野、研究分担者伊澤を含む日本人研究者三名の他、インド、フランス、ベルギーの研究者が発表およびディスカッションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに38本すべての写本の読解を終えたことで、研究の最も時間がかかることが予想されたパートは終えたと言える。この写本の読解をもとにして、批判校訂本作成が順調に進展している。批判校訂本は、第1巻が完成し、第3巻もおおむね完成している。完成した第1巻の出版を検討したが、第1巻のマントラは、第3ー4巻の儀礼解釈に対応部分があり、それらの儀礼解釈部分の批判校訂と現代語訳を行い、解釈困難な語彙、語形の検討を充分に行った上で、第1巻の校訂本に反映させることが必要と判断した。このような検討の上、第1ー4巻の批判校訂本及び、未訳部分(第1-2巻のマントラ部分、第3-4巻全体)の現代語訳を出版するには、これらのすべてを作成した上で、解釈に齟齬のないよう確認して完成することが最良であることを確認した。 マイトラーヤニー・サンヒターは、章ごとに異なる言語的特徴を示し、章ごとに成立背景の違いがあることを想定して研究を進めてきた。2022年度は、マントラ章の中で特に言語的特徴が際立つ、アープリーと呼ばれる讃歌への導入句(第3ー4巻の中の数章)について研究した。その結果、この章の成立背景(時代や、異なる学派からの影響)は、これまでマイトラーヤニー・サンヒター全体の成立過程について立てていた仮説を越えた、さらなる考察を促すものであった。マイトラーヤニー・サンヒターの成り立ちを理解するためには、このような章ごとの成立の違いを正しく捉えることが必要であり、校訂・訳の進捗にはその都度このような課題を解決する必要があることを確認した。 このような検討を繰り返す中、現代語訳の完成の優先順位を、第3ー4巻の儀礼解釈部分に置くという判断をした。第3巻の儀礼解釈部分は、読解はほぼ完了しており、ドイツ語訳と訳注を完成させる段階である。第3巻には、第4巻に影響を及ぼした部分も多く、併せて第4巻の解釈も進捗させている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は本研究課題の最終年度である。優先課題とした第3-4巻の儀礼解釈部分のドイツ語訳と訳註、原典校訂を完成させる。この作業と同時に、当該部分との関連部分の訳註と校訂に取り組み、進捗させる。第3巻の儀礼解釈部分の訳および註、原典校訂を完成させ、ドイツ語の校正へと進める。この著作は、ヴェーダ語、ヴェーダ儀礼の専門知識なしには理解が困難であるが、この分野の専門研究者であり、研究代表者天野による第1-2巻の儀礼解釈部分のドイツ語訳出版の際に校正に協力した、M. Albino氏(エアランゲン大学)およびS.Scarlata氏(チューリヒ大学)が、今回も校正および、内容についての提言も行う予定である。 2023年度に、読解を進めるのは、第4巻の「王の灌頂」章および「ソーマ祭」章である。両章とも、研究代表者天野の講読ゼミ(京都大学および大阪大学)のテーマとなっており、この機会も利用して読解を進める。また、第4巻の「新満月祭」章は、天野と研究分担者伊澤が参加する、京都大学人文科学研究所公募研究班「インドにおける『循環的存在論』の形成」において講読される予定であるため、この機会を利用して訳註および原典校訂の作成を進める。 伊澤との共同研究で中心としているのは、第3巻の「火壇積み」章であり、読解を終えているが、内容の整理および、同時代の他の文献の記述との比較を進めるため、これまでと同様、毎月一回の研究会を開催する予定である。「火壇積み」は非常に大規模な儀礼で手順も複雑であり、読解は困難を伴ったが、これまでの研究成果として、記述内容の整理、儀礼手順の一覧表の作成を行い、本年度中に発表を行う予定である。 これらの研究成果とは別に、マイトラーヤニー・サンヒターの読解を進める上で解決した語彙や儀礼の問題を、個別の論文として、9月に開催される第8回国際ヴェーダ学ワークショップ(パリ)で発表する。
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