研究課題/領域番号 |
19H01199
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 純 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10251331)
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研究分担者 |
中島 隆博 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (20237267)
竹峰 義和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20551609)
清水 晶子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40361589)
乗松 亨平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (40588711)
長木 誠司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50292842)
オデイ ジョン 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50534377)
加治屋 健司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70453214)
森元 庸介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70637066)
桑田 光平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80570639)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 予見 / 徴候 / 知覚 / 表象 / アフォーダンス / 芸術制作 / 経験美学 |
研究実績の概要 |
本年度は「予見の思想史」をメイン・テーマとし、次のサブ・テーマによる研究を行なった。 1) 徴候的知としての予見:H.ブレーデカンプがライプニッツを踏まえて唱える「予見のイメージ論」を視野に入れつつ、「徴候的知」(C.ギンズブルグ)の系脈を「予見」の思想史として考察し、W.メニングハウスらの提唱する経験美学の知見を参照することにより、芸術制作における予見の作動様態分析の端緒とした。 2) 予見モデルによる近世感情論の再検討:西洋前近代における「感情(sentiment)」の語の両義性を踏まえ、合理論者マルブランシュが晩年、恩寵の先駆的駆動を感情に認めるにいたった経緯、フェヌロンの霊性論が呈示した能動性と相互浸透する特異な受動性の概念に着目し、その世俗的ヴァリアントも視野に収めつつ、質的変化への予見という観点から感情概念の思想史的再検討を行なった。 3) 予測処理理論による表象モデルの再検討:認知プロセスについて、脳が自身で先行して構成したモデルに即して感覚と推論の両レヴェルで未来をまず予見し、エラーが検出された時点でモデル自体の修正へ向かうと提唱する、脳科学の予測処理理論(predictive processing theory)の妥当性を認識論/現象学の観点から検討し、主観確率と連動したその特異な時間理解の適用可能性を探究した。 4) 予見モデルによる社会思想の再検討:G.G.ギブソンのアフォーダンス理論の知見を拡張してP.ブルデューの「ハビトゥス」、M.ド・セルトーの「日常実践」、H.ガーフィンケルらのエスノメソドロジーといった概念に再検討を加え、人間と環境の力動的な相互作用という観点から社会思想の系譜の再構成を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は4つのサブ・テーマにもとづく「予見の思想史」に関する研究を、各サブテーマ・リーダーを中心に着実に展開したことに加え、2019年5月18日(土)~19日(日)に東京大学で開催された国際シンポジウム・フンボルトコレーク東京2019「神経系人文学と経験美学」に共催の形で関わり、マックス・プランク経験美学研究所のW.メニングハウスや坂本泰宏など、ドイツにおける経験美学や神経系人文学の代表者たちと集中的な討議を行なった。これによって、次年度(2020年度)に予定している「予見のポエティクス/エステティクス」のテーマへとつながる、芸術制作において作動する予見の機制を解明する研究の足がかりを得ている。この国際シンポジウムとも関係する、坂本らと継続している国際共同研究の成果は論文集にまとめられ、ドイツでの出版が予定されている。また、サブ・テーマをコアとする研究は各研究分担者の論考などに結実しているが、次年度のテーマと接続することを目論んで、今年度末には、東京大学芸術創造連携研究機構との共催により、芸術制作をめぐるシンポジウムを計画していた。しかしながら、突然のコロナ禍により、このシンポジウムの対面実施が困難となり、やむを得ず、一部の研究費を繰り越して、2020年度の実施とせざるをえなくなった。その点に関しては研究計画に遅延が生じたものの、上記のような実績を踏まえ、全体として本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に繰り越した芸術制作に関するシンポジウムの実現が第一の課題である。コロナ禍のもとで全面的に対面での研究交流は困難だが、オンラインによる実施を含めて、代替的な手段による実現を図る。「予見のポエティクス/エステティクス」をテーマとする、2020年度の研究計画全体に大きな変更はなく、1) 予見におけるアクターとの相互作用、2) 前衛芸術における制作と予見の契機、3) 作品と予見の時間構造、4) 音楽聴取における予見的機制、という4つのサブ・テーマによる研究体制にも変化はない。このうちの2) については、2021年に東京大学駒場博物館で開催予定の宇佐美圭司展に本研究の研究分担者が中心的に関わっており、この展覧会実施にいたるプロセスを通じた本研究の深化も期待される。コロナ禍により、海外からの研究者の招聘や海外への渡航による調査・研究交流は難しい状況にあるが、坂本泰宏をはじめとする研究協力者とのコンタクトは密接に保たれており、共同研究の成果出版を着実に進行させる。
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