研究課題/領域番号 |
19H01217
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
江村 知子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化財情報資料部, 室長 (20350382)
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研究分担者 |
並木 誠士 京都工芸繊維大学, 美術工芸資料館, 特定教授 (50211446)
多田羅 多起子 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (10869324)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本美術史 / 日本絵画史 / 美術作品の評価 / 文化財の調査 / 文化財アーカイブ |
研究実績の概要 |
田中一松資料の調査研究とデジタル化を進め、保存状態に問題のある 資料については修復を行った。概要を通覧するためにはデジタル画像での閲覧を、原本に当たら なければわからない調査研究の用途には現物を提供できるような体制とした。 土居次義資料についても、調査研究と写真資料を中心にしたデジタル化を進めた。細部を比較 するために撮影された大量の写真のデジタル化の進行に伴い、調査ノートの記録との照合で評価 の観点を具体的に再現することができる形を構築した。さらに土居と同時期に日本美術史研究で 大きな成果を残した源豊宗の資料約 500 件を購入し、整理を行った。 また当研究所には今泉雄作(1850-1931)、平子鐸嶺(1877-1911)による調査研究ノートも所 蔵されている。田中一松・土居次義のものとともに、4 者の調査ノートを中心に、調査対象とな った実際の絵画作品も交えながら、令和 2 年度に東京国立博物館の特集展示として展覧会「日本 美術の記録と評価―調査ノートにみる美術史研究のあゆみ―」を開催した。展覧会開催期間中の 総合文化展の入館者数は 15,737 人、同期間に開催していた特別展「きもの展」をあわせた総入館 者数は 86,543 人であった。また調査ノートの書き下し文なども読めるように工夫したウェブ展 覧会も同時に公開した。また田中一松の来歴や事績の調査を進め、研究ノート「田中一松の眼と手」という論考の形でも成果公開を行ったほか、関連する作品研究にも本研究の成果をいかし、多角的に研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、博物館なども臨時休館になったが、オンラインによる協議や情報共有によって研究を進め、予定通り2020年7月14日~8月23日に東京国立博物館本館14室で本研究テーマによる展覧会を開催した。美術史家による調査ノートと、実際の作品(渡辺始興「農夫図」、狩野養信「中殿御会図模本」)を同じ空間に展観し、どのように調査が進められ、評価に至っているのかを明示した。日頃、研究論文や研究者の仕事にふれる機会の少ない一般市民の方々にもわかりやすく説明することに努め、作品理解につながる展示を実現した。また保存状態に問題のある資料については修復処置を行うなど、資料の保全にも努めた。調査ノートの研究、整理を進めて、次年度に予定している公開デジタルコンテンツの準備も行った。
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今後の研究の推進方策 |
一般的に現在ではデジタルで記録を残すことが主流であるが、今も作品調査の際には手書きのメモやスケッチが後々の研究の基礎となることが少なくない。手書きでしか残せない、手書きが最も効率の良い記録方法である場合もある。本研究はこうしたアナログ研究資料をデジタルの特質を活かして保存活用し、未来にも活かすことを目指す。デジタル化作業と各種資料との比較・考察により、田中と土居による半世紀以上に及ぶ文化財関係業務、日本絵 画の調査研究の実態を把握することができる。個々の作品研究において有益な情報が集約できる ばかりでなく、数多くの作品がどのように評価・位置付けがなされ、日本美術史が語られてきたか、という問題を本研究課題によって明らかにすることを目指す。
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