研究課題/領域番号 |
19H01223
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研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
北田 克己 愛知県立芸術大学, 美術学部, 教授 (50242251)
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研究分担者 |
吉村 佳洋 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (10336670)
阪野 智啓 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (00713679)
稲葉 政満 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (50135183)
半田 昌規 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (20538764)
荒井 経 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (60361739)
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (20311160)
宇高 健太郎 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (30704671)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膠 / 日本画 / 伝統的材料 / 保存修復 / 地域文化継承 / 岩彩画 |
研究実績の概要 |
【国際共同研究と研究ネットワーク形成】 8月 東海大学(台湾・台中市)において膠彩画の調査と日本画技法とその歴史、現状、材料を紹介するなど研究交流を実施した。11月 李可染画院(中国・北京市)において重彩画の歴史、絵画材料と教育システムを調査し、日本画技法とその歴史、現状、材料を紹介するなど研究交流を実施した。12月 天津美術学院(中国・天津市)と絵画技法材料、表現の共同研究を行うため、名古屋市内、愛知県立芸術大学サテライトギャラリーにおいて膠技法による絵画表現の可能性、材料研究、普及について展示を含む研究会を実施した。天津美術学院においては日本画技法とその歴史、現状、材料を紹介し、愛知県立芸術大学では敦煌莫高窟壁画における絵画技法と材料を紹介する講義を相互に行った。 【地域性に立脚した膠の製造継承と製品の実用化試験】 4月 地域文化としての姫路市高木地区における古典的膠の製造継承を支援するとともに、その実用化のため、ニホンジカの皮を主たる原材料として試作を行った。原皮処理過程を検討し、油分の除去を図った。日本画制作での試用を行い、これまでの製品との比較評価を行い、次回試作へのフィードバックとした。 【普及プログラム】 9月 龍谷大学(京都市)において公開研究会「膠千年」を開催した。地域関連のタイムリーな修復事例として「平等院鳳凰堂扉絵修理」を取り上げ、所蔵先である平等院、修理を担当した技術者、修理に用いた膠を開発した研究者の3方向の視点からの講演と関連展示を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【国際共同研究と研究ネットワーク形成】主に東アジアで本研究、研究分担者の国際的な認知が拡がりを見せていることから、予定した調査先より多くの大学、研究者との交流を行うことができた。すでに日本との関係を築いている海外大学や研究者でも膠はまだ研究対象として馴染みが薄く、知識の共有はこれからである。着実に研究交流を重ねる必要がある。 【地域性に立脚した膠の製造継承と製品の実用化試験】産地、生産者の事情、製造体制に過剰な負荷がかからないように配慮しながら、本研究の知見を提供しつつ実用化のための試作を年1回の実施を継続してきたことで、製品の安定性につながってきている。このプログラムの継続は地域にも徐々に浸透しており、理解者を増やしている。ひとえに協力者の尽力によるものであり、今後も継続的な支援を行う。日本画での試用は年々性状の変わる製品の使用感を定量化する難しさは変わらないが、産地とのコミュニケーション改善によって間違いなく製品にフィードバックされてきた。チョウザメの浮き袋からのアイシングラス製造試験は研究協力の中心者の事情で中断した。 【普及プログラム】公開研究会「膠千年」を開催し、主に修理分野における膠の用途に応じた選択について実例報告を行った。製造方法と膠の性状の関連についての分担者宇高氏の知見が修理現場で適用される例が多くなっている。修理分野において膠に対する正確な知識の普及が進んでいることが示されていると考えるが、施工数や接点の希薄な技術者への普及などまだ途上である。 絵画分野については膠の適用様態が画家によって千差万別であり、膠の性状と技法の関連を明確に発表するには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
【国際共同研究と研究ネットワーク形成】2者間(バイ)交流の形式を推進し、膠研究の認知と底辺拡大の取り組みを継続しながら多元的な(マルチ)ネットワーク形成を目指す。今年度計画のボストン美術館、ハーバード大学図書館保存部門とのワークショップは、そのネットワーク力による専門家の結集が見込まれることから計画推進に寄与することが期待される。 台湾芸術大学、東海大学は台湾における有力な中国画、膠彩画の拠点校であり、膠技法、膠研究の課題を共有できる基盤と影響力を有していることから共同研究を推進すべき対象である。 【地域性に立脚した膠の製造継承と製品の実用化試験】古典的膠製造を継承する唯一の地域として姫路市高木地区との連携、支援を引き続き継続する。注目が高まることで生産者への多様な接触が増えている事情があるが、静かな環境で開発製造ができるように配慮しつつ研究を推進する。 【普及プログラム】研究組織の多くが運営に関わる膠文化研究会主催の公開研究会では、膠に関わる多彩な講演がなされてきた。約10年にわたり膠文化の理解と膠に関する正しい知識の普及に大きく寄与してきた。この情報にアクセスしやすくすることで関係する専門分野での課題解決や改善に資するため、講演のテキスト化、アーカイブ化を進める。膠を代表とする伝統的材料製造や修復分野には事業、技術継承に課題を抱えるところも多く、時代の証言として将来貴重な記録ともなるものである。2015年膠に関する基礎知識普及のためのリーフレット「膠の基礎知識」を発行した。ここで膠を「和膠、洋膠、古典的膠」に分類することを提唱した。現在、膠研究において基盤の概念として定着してきている。続篇として新たなリーフレットを発行する計画である。また定例の公開研究会を開催予定である。 ただし上記計画の一部はコロナウイルス拡大によって確たる実施見込みが立っていない。
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