最終年度はパンデミックが収束したことに伴い、前年までの研究成果のアウトプットに活動の重心を移した。濱田は中国(北京大学、人民大学)、台湾(慈済大学、台湾大学)、香港(香港大学)でジェンダー/サイノフォンの知見から文学史の再構築を試みる旨の講演を行い、新たな共同研究のための意見交換を行なった。また、大邱で行われたアジア協議会に出席して、20世紀の女子教育におけるシスターフッドの形成が現代文学に及ぼした影響について研究報告を行い、韓国・中国・台湾の研究者と関連する討論を行なった。また、米国からサイノフォン研究の第一人者であるソン・ミンウェイ教授(ウェルズリー大学)を招いて、北海道大学、神戸大学を含む各地で講演会及びワークショップを開催し、ロシア文学、日本文学、英米文学、韓国文学の研究者と幅広い視覚からサイノフォン現象を検討した。一連の講演活動を通じて、サイノフォン文学とSF、ポストヒューマン(後人類)、ノンバイナリー(LGBTQ +)といった概念を組み合わせて文学史を構築することの可能性を提案した。 サイノフォンという新たな概念とジェンダー観点を結びつけ、中国語圏文学史を読み直す新たな視座を獲得しようという提案をより説得的なものにするため、研究論文と並行して重要な学術記事や文学テクストの翻訳にも着手した。濱田は自分の主要論文から二点を選んで中国の学術誌に投稿し、新たな共同研究の可能性を開いた。田村は中国の厳しい現実を抉った楊顕恵の文学テクストを日本語に訳し、1950年代の知られざる闇に新たな焦点を当てた。
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