研究課題/領域番号 |
19H01246
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
一丸 禎子 学習院大学, 文学部, 講師 (80567313)
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研究分担者 |
松村 剛 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00229535)
志々見 剛 学習院大学, 文学部, 准教授 (40738069)
Patrick Rebollar 南山大学, 外国語学部, 教授 (50329744)
Mare Thierry 学習院大学, 文学部, 教授 (60188654)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マザリナード / mazarinades / コーパス / デジタルヒューマニティーズ / フランス史 / フランス文学 / フロンドの乱 / 日仏共同研究 |
研究実績の概要 |
本研究はマザリナード文書の電子コーパスを中心に構築されたインターネット上の研究用プラットフォームmazarinades.orgの恒久的保存と利用体制を三つの柱(コーパスの充実、研究活動の維持、成果発表)によって支えることを目指している。これは未来のデジタルヒューマニティーズの方法論として、作成されたデジタルデータをより長い期間有効に利用できるように自立した研究活動のエコシステムを構築する実験でもある。 初年度にあたる2019年度は核となる電子コーパスをより豊かで堅牢にすることから着手した。フランスの研究協力者であるボルドー市立図書館およびエクサンプロヴァンス・メジャーヌ図書館から提供されたマザリナード文書の画像データをテクストデータに変換し、さらにmazarinades.orgに新しい機能(一括で一文書を表示できるようにするなど)を加えることである(ただし、転写作業の業務委託先の突然の廃業により、メジャーヌ図書館の転写作業が中断したため補助金を繰り越すことになった)。 次に研究活動の維持として、2020年8月にフランスで開催される予定の国際学会を準備するため学術委員会と運営委員会を組織し、それらの委員たちとフランスにおいて会議を行い、この国際学会の位置づけ等を日本側がリードする形で協議した。同時にこの会議のための渡仏を利用し、次の新しい研究課題である地方のマザリナード文書を発掘するためにボルドー公文書館、サルラ町立図書館等で文献の調査を行った。 三つ目の課題である成果発表として、2016年に東大駒場キャンパスで行われた国際シンポジウム「マザリナード文書探求」の8本の論文の翻訳を開始した。この8本は本研究の電子コーパスを使うという条件で達成された研究成果である。つまり現在のこの研究分野の最先端の知見であり、「マザリナード文書」を日本語で記述する言語の確定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において予期されていなかった最も大きな問題は、画像から文字を手作業で書き写し、XML-TEI形式でテクストデータを作成する作業を委託していたスイスのダタクティヴティ社が業務遂行半ばで突然の廃業を決定したことである。そのためにエクサンプロヴァンス・メジャーヌ図書館提供分のマザリナード文書を別の業者に委託しなければならなくなった。この作業は国内ではひじょうにコストがかかり、また、フランスにおいても17世紀のフランス語テクストであり、機械で読み取ることができない、またテクストデータ構築の際にこちらの希望通りの作業ができる業者がきわめて少ない等の理由で選定は著しく難航した。繰り越した2020年にはコロナウイルスによるパンデミックが発生し、あらたな委託先となったフランスのヴィヴェティック社がマダガスカルにもつ作業場が閉鎖となるなどの問題が発生した。現在、アトリエが再開し、この問題は解決している。 この転写作業委託先業者選定やパンデミックの影響で作業が中断している間に、私たちの研究グループは、発想の転換をし、いよいよ資料のデジタル化や研究活動の場をインターネット上に移すことの必要性を確信し、研究計画をよりデジタルヒューマニティーズの未来に近づけることが可能になった。本来なら研究計画3年目の課題である国際シンポジウムで発表された8本の論文の出版形態を変更し、最初から日仏二か国語の電子書籍として出版しようと決めたのだ。同時により広い読者に研究成果を届けるための日本語のマザリナード研究入門サイトを構築することにした。また、この翻訳作業はマザリナード研究の最先端の知見を国民に還元するだけでなく、研究者にとっては「日本語でマザリナード研究」を記述する際の学術基盤情報を作る作業でもある。結果的にパンデミックで図書館等の資料に直接当たれない状況が本研究をさらに進化させることになったのである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は先に述べたように三本の柱(コーパスの充実、研究活動の維持、成果発表)によって支えられ、作成されたデジタルデータをより長い期間有効に利用できるように自立した研究活動のエコシステムを構築する実験でもある。そして研究活動の維持のために、数年ごとに学術委員会、運営委員会を組織し、大規模な国際学会の開催を呼び掛けている(第一回目は2015年)。それは世界各地から研究者が集まり、対面し、刺激しあうことによりあらたな知見を発見するにいたる重要な行事である。研究者コミュニティの維持には欠かせない活動だ。しかしながら、このたびのパンデミックにより、対面での国際学会開催が延期となり、私たちはこの活動を別の方法でも維持する必要が生じた。研究計画の一部を変更し、遠隔による方法論を検討しなければならないだろう。 また、このたびのパンデミックの影響で研究活動を滞らせないためには、マザリナード文書のデジタル化のように学術基盤情報を今後はより積極的にデジタル化していく必要が痛感された。これまでよりももっと、これからは動画等のコンテンツによる学術基盤情報が導入されるべきではないかと考えられる。デジタル化の保存から発信へのシフトである。本研究3年目に予定されていた成果発表の方法論をさらにデジタルヒューマニティーズ寄りに深化させていく必要がある。そこで3年目を待たずに、私たちはその準備に着手した。たとえば、学術出版の完全デジタル化とそれを支えるシステム、Webコンテンツとして学術基盤情報を公開する方法などである。現在フランス国立図書館(BnF)の電子図書館Gallicaのコンテンツを参考に新しい学術基盤情報の公開方法を問題点も含めて検討しており、マザリナード研究を日本がリードするデジタルヒューマニティーズへの移行例としてモデル化していきたいと考えている。
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備考 |
フランス国立パリ大学(ソルボンヌ・ヌーヴェル)アレクサンドル・ジェフェン教授博士課程大学院セミナー講師/レボラール・パトリック(南山大学)、一丸禎子(学習院大学)/2020年3月2日:テーマ「マザリナード・プロジェクト」について
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