研究課題/領域番号 |
19H01256
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
太田 真理 九州大学, 人文科学研究院, 講師 (20750045)
|
研究分担者 |
成田 広樹 東海大学, 文学部, 講師 (60609767)
大関 洋平 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (10821994)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 言語脳科学 / 理論言語学 / 自然言語処理 / 脳磁図 / fMRI / 脳波 / 形態統語論 |
研究実績の概要 |
今年度は、以下のトピックに関して研究を進めた。 (1)日本語母語話者に対する機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験により、併合演算によって作られた統辞構造に基づく単語同士の依存関係と、統辞構造と無関係の依存関係では、脳で処理するメカニズムが異なるかどうかを検討した。その結果、併合演算で作られた統辞構造に基づく単語同士の依存関係は左下前頭回を中心とする言語野で処理されるのに対し、統辞構造に無関係な依存関係は、両側の外側運動前野、後頭葉を中心とする脳領域で処理されることを明らかにした。以上の結果を原著論文としてFrontiers in Psychologyにて発表した。 (2)日本語母語話者を対象に、語彙を判断する際の脳活動を、脳磁計により計測した。その結果、左下側頭回・紡錘状回の活動が、形態素間の推移確率によって説明可能であることを実証した。以上の結果を11th Annual Meeting of the Society for the Neurobiology of Language (SNL2019)、Architectures and Mechanisms for Language Processing 2019 (AMLaP2019) などで発表し、引き続き投稿論文の準備を進めている。 (3)日本語母語話者を対象に、経頭蓋直流電気刺激法を利用して、文法学習に伴う脳の可塑的変化を検証する実験を実施した。左下前頭回を含む脳領域を電気刺激すると、文法処理に必要な処理時間が変化することを明らかにした。以上の成果は第43回日本神経科学大会にて発表予定である。 来年度以降も引き続き、実験・理論・モデリングの研究を進めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点まで、fMRIデータの解析と脳磁図データの解析を中心に進め、研究成果を査読付き原著論文や学会にて発表してきた。現在、日本語母語話者に対して、脳磁図実験と同じ実験デザインで脳波実験を実施中である。新型コロナウイルスの影響により、実験設備の使用が6月末まで不可能になったため、実験は一時中断しているが、実験設備の使用再開後に引き続き実験を進める予定である。新型コロナウイルスの影響による実験室閉鎖が長期化した場合、実験は2021年度以降に繰り越し、今年度はシミュレーションを中心とした研究や、言語理論の研究を中心に遂行する予定である。また、脳磁図実験の成果を査読付き原著論文として発表する準備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
現在まで本研究課題はおおむね順調に進展しているため、今後も現在の研究体制を維持し、研究目標の達成に向けて努力したい。具体的には以下の研究を推進する。(1)シミュレーションによる言語神経回路の解明:文法を担う左下前頭回と、意味や音韻を担う他の言語関連領域からなる神経ネットワークをシミュレーションにより解明する。解析には、研究代表者が利用してきた動的因果モデリング(DCM)や、偏相関分析を使用する。DCMは脳領域間の情報伝達のモデルを作り、そのモデルがどれくらい実験データを説明できるかを検証する、トップダウンの手法である。一方で、偏相関分析はデータに基づいて脳活動の類似度を調べるボトムアップの手法であるため、両者は相補的である。(2)文に対する脳磁図実験:日本語母語話者40名程度を対象に、日本語の文に対する文法判断課題を行わせ、課題中の脳活動を脳磁計で計測する。実験では、研究代表者の先行研究を踏まえて、能動文・受動文・使役文・可能文などの構文を用いる予定である。(3)実験結果に基づく言語理論・計算モデルの再検討:脳磁図実験の結果に基づいて、言語理論・計算モデルの検討を行う。具体的には、研究分担者の先行研究を発展させ、脳活動の予測誤差が最小の計算モデルと、そのモデルに対応する言語理論を特定する。現在新型コロナウイルスの影響で実験設備が閉鎖されているが、(1)と(3)に関しては問題なく実施可能である。
|