コロナ禍の中でも当初の目的(早期日英バイリンガルの言語習得と喪失メカニズム解明研究)を達成するために、シドニー日本語土曜学校でデータ収集予定であった日英バイリンガルの代替として、日本国内で生育した日英国際家庭児からデータ収集を行い、英語圏からの帰国生との比較をする方針を立てた。社会言語の差により、(表象言語とアルファベット言語を母語とする)日英バイリンガルの言語習得に差が出るのかどうかを焦点に、習得メカニズム解明を行う。一方で、帰国生徒を帰国直後から縦断的に観察することで、喪失メカニズムを解明する研究目的は保持した。 最終年度も前半はコロナ禍で期待通りのデータ収集はできなかったが、過去に収集した帰国生のデータで未分析データを活用することで、習得・喪失メカニズム解明の為のデータを揃えることができた。バイリンガル言語習得は、モノリンガル言語習得に比べて大きな個人差が先行研究で報告されていて、数少ない被験者の平均値よりも、複数被験者間の比較が適切と判断し、これらのデータを言語面・脳賦活面から精査した。 分析の結果、(1) 早期日英バイリンガルの習得様態に関して、均衡バイリンガルと呼べるほど両言語共に言語面では高いレベルに到達するが、脳賦活の観点から見ると、小学校卒業までを英語圏で過ごすと英語産出に負荷が少なく、日本語圏で過ごすと日本語賦活が少ない事が判明した。一方で更に3年間(中学校卒業まで)過ごすと、傾向は一変し、英語圏育ちは英語賦活に負荷がかかり、日本語圏育ちは日本賦活に負荷がかかる事実が浮かび上がってきた。(2)帰国生の言語喪失様態に関しては、中学1年生での帰国では翌年には既に英語産出時の脳への負担増が観察されたが、高校1年生での帰国の場合、そのような変化が起こるまでに約2年間の猶予があることが判明した。
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