研究課題/領域番号 |
19H01305
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
佐藤 全敏 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (20313182)
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研究分担者 |
塚本 麿充 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00416265)
海野 聡 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00568157)
豊島 悠果 神田外語大学, 外国語学部, 准教授 (10597727)
横内 裕人 京都府立大学, 文学部, 教授 (50706520)
滝川 幸司 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (80309525)
前田 禎彦 神奈川大学, 国際日本学部, 教授 (80367250)
皿井 舞 学習院大学, 学習院大学文学部, 教授 (80392546)
小塩 慶 東京大学, 史料編纂所, 助教 (80880765)
渡辺 秀夫 信州大学, 人文学部, 名誉教授 (90123083)
渡邊 誠 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (90805269)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国風文化 / 唐物 / 成尋 / 五台山 / 天台山 / 平等院鳳凰堂 / 礼堂 / 組物 |
研究実績の概要 |
本年度は、各自研究を進めると同時に、その総合のための研究会を3度実施し、毎回長時間に及ぶ討議を行った(李宇玲氏は中国・上海市より毎回参加)。個別報告の具体的テーマは以下の通り。①横内裕人「成尋入宋中の宗教活動に見る国風的要素―聖地巡礼論の再検討―」、②海野聡「日中比較を通してみる建築の国風化」、③小塩慶「近年の「国風文化」論の再検討と課題」。 これらの報告と討議により、本年度は特に以下の事柄が明らかになった。(ⅰ)11世紀に宋に渡った僧・成尋の「目的」「経典・書籍をめぐる交流の実態」「当地での宗教活動」。関係史料に対する根本的かつ詳細な再検討により、従来の研究とはかなり違った認識を得られることとなった。(ⅱ)平安時代に変化した建築的要素の抽出、およびそうして抽出される要素と、同時代中国における変化・特徴との比較から知られる相互関係の有無について。やはり根本的かつ体系的な検討により、日本の建築における「国風」的現象には、中国からの技術・意匠の受け入れが認められないことが実証度高く確認された。(ⅲ)近年発表されている論文・シンポジウム・座談会などにみられる「国風文化」に関する議論の動向、およびそこから導き出される問題点について。諸研究者の議論内容をメンバー全員で丁寧に把握すると同時に、今後、当研究会がなしていくべき作業が確認された。 このように本年度は、仏教と建築という二大要素について、揺るぎない実証的成果を得ることができた。これらの成果が公表された暁には、それぞれの分野で、以後長い間、基本論文となることが予見される。また進行中の本研究がどのように学界で受けとめられ、その結果、新たにどのような論点が生まれているのかを確認し、今後の研究方法の調整を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度より、各分野を担当する研究者が各自着実に研究を重ね、その結果の報告会を、これまで合計10回重ねることができた。そのつど、長時間にわたる討議が行われ、領域横断的にみられる「国風」的文化現象の〈本質・構造・成立過程〉について多くの知見を得るにいたっている。 その成果の一端は、すでに令和2年度の国際シンポジウムで公表しているが、その後さらに研究が着実に進められている。また中間報告的に、研究代表者・分担者・協力者が多くの論文や口頭報告を公表しており、これに応じて他のさまざまな研究者も論考を発表されるなど、当該テーマについて、学界で論義を呼び起こす状況となっている。このこと自体、研究計画段階に望んでいたことであり、大変ありがたい状況と認識している。刊行された研究成果の一つとして、『シリーズ古代史をひらく 国風文化』(岩波書店、2021年)がある。 もっとも、コロナ渦により、当初予定していた中国での共同研究や現地調査が叶わず、延期した状態となっている。当時の東アジアの文化のなかに、日本の「国風」的文化現象を説得的に位置づける作業は、次年度以降の課題である。 なお育児をはじめとする他事のため、毎回長時間は参加できないメンバーもあったが、zoomを利用して音声だけで参加したり、あるいは後日録画を視聴するなどの方法により、研究の一体性を保つことができている。各研究者のおかれた現実の状況に目をつむることなく、継続可能な、実効性のある研究が推進できていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
議論の総合化のため、絵画史においても最終的な認識に到達したい。具体的には、朝鮮王朝・遼・金・西夏への、北宋水墨画の流入状況を実証的に調査し、また同時期の日本の水墨画受容の状況を作品分析から明らかにすることにより、受容状況の相違、および相違する理由を明らかにしたい。その受容構造が相違することになる「理由」は、おそらく絵画史に限ることなく、他分野にも大きなヒントとなることが予見される。議論の総合を大きく進めるためにも、令和4年度はまずは絵画史の分野に注力したい。 さらに令和4年度は、「国風文化」におけるジェンダー構造を、各分野のなかで具体的に検証していく段階に入る。その実現のためには、ジェンダー史研究者に頼るだけでなく、むしろ各メンバー1人1人が、みずから専門とする分野のジェンダー構造に関心をもち、専門的な知見をもって分析していく必要がある。そのために、まずは前提となる問題意識の共有と、分析視角の討議を行う必要がある。 なお令和4年度には、メンバー全員が、日本国内では実見・体感することが難しい中国文化に直接触れ、また中国研究者との共同研究会を行う予定としているが、コロナ渦により、その実現が再び不可能となった場合は、zoomでの共同研究会の可能性を模索すると同時に、台湾の故宮博物院での作品拝観、および当地の研究者との対話などに変更する。
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備考 |
【文庫解説】佐藤全敏「透徹した目、柔らかなまなざし」(目崎徳衛『平安王朝』講談社学術文庫、2021)
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