研究課題/領域番号 |
19H01326
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加藤 直人 日本大学, 文理学部, 教授 (90130468)
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研究分担者 |
松重 充浩 日本大学, 文理学部, 教授 (00275380)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 旅蒙商 / 内陸華僑 / 交易ネットワーク / 中国東北 / 吉林 / 韓辺外 / 清朝 |
研究実績の概要 |
本研究は、「旅蒙商」と呼称された内陸華僑(Inland Chinese)の活動を軸に形成・展開された、北アジア、東北アジアに形成された陸路・水路の「内陸アジア交易ネットワーク」と、その社会・文化変容の実態解明を目的に、現地調査で収集された資料分析を軸に新たな実証水準の提示を図ろうとするものである。 初年度の令和元年度は、上述目的・計画に則して、最初の現地調査として中国東北地域現地調査・史料収集を行った。具体的には、研究代表者と同分担者および研究協力者が、北京、長春、吉林、樺甸(夾皮溝鎮)での関連史跡・博物館(晋商博物館、首都博物館、吉林水師営博物館、吉林市博物館、阿什哈達磨崖碑、「巴虎爾門」跡、清真寺、烏拉古城、善林寺遺跡、「韓辺外」、等々)の調査と資料収集を実施した。 その結果、松花江水運を考える上で重要な清代の船廠(造船所)の中心地が「阿什哈達磨崖碑」の所在地と異なることを確認できた。加えて、聞き取り調査を通じて吉林市で既に消失している移住してきたモンゴル系バルガ人に由来する「巴虎爾門」の位置特定や、清朝の宮廷用物品(毛皮等)の調達にあたる「打牲烏拉総管衙門」が置かれた烏拉街の諸建築調査を通じて流通機能に都市形成における役割に関する知見の収集も行った。これらの成果は、旅蒙商が展開する前提となる、民族地理と経済地理を統一的に把握する上で基礎的なデータとなり得るものであり、次年度以降の考察において有益な成果となった。 また、「韓辺外」の調査では、旅蒙商らにより形成された内陸交易ネットワークが、中国本土から東北地域への移民漢人の地域内再移動の前提を形成し、そこへの清朝側公権力の関与如何が19世紀末以降の現地政治経済のダイナミズムを喚起させるものだったことが確認でき、内陸交易ネットワークの持続性と波及性を検討する上での貴重な事例獲得の成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、前述した通り、北アジア、東北アジアに形成された「内陸アジア交易ネットワーク」と、そこにおける社会・文化変容の実態解明を目的に、現地調査で新たに収集された資料分析を軸に新たな実証水準の提示を図ろうとするものである。この点をふまえて、前述した令和元年の成果内容を確認すれば、「内陸アジア交易ネットワーク」を構成する重要な領域となる中国東北地域に関する現地調査が実施され、その実態把握・分析に必要な成果を得ることが出来ている。とりわけ、現地での聞き取りや資料収集(「韓辺外」調査時に、現地企業から提供を受けた日本での入手困難な『夾皮溝金鉱史志』(吉林文史出版社,2009)などの稀覯文献を含む)から導出される従来の文献研究では不明もしくは曖昧だった諸情報の修正・確定に繋がりえる知見を得たことは、次年度以降の分析・考察に資するデータ獲得のみならず、次年度以降の現地調査における留意点把握にも資する成果となっている。 その一方で、想定外のこととはいえ、年度末に予定していた国際ワークショップが新型コロナ感染症の流行により中止になり、本年度成果の外部評価を得る機会を持てなかったことは、誠に遺憾であった。次年度で、改めて(もしもの場合は代替策を含めて)トライする予定であるものである。 以上の点から、本年度区分を「(2)おおむね順調に進展している。」とした次第である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の現地調査の成果をふまえつつ、今後の研究としては次の3点を重点的に進めて行く計画である。 一つは、旅蒙商の重要な交易ルートにおける、初年度踏査ルート以外での現地調査である。具体的には、西南中国地域(青海省、甘粛省)ルートと北アジア地域(モンゴル・東シベリア・沿海州)ルートにおける史跡調査、現地文献の収集、現地研究者との学術交流を、研究協力者の参加と助力を得ながら実施する。これらの調査を通じて、旅蒙商たちが陸路・水路を駆使しつつ構築した「内陸アジア交易ネットワーク」における<ロシア-モンゴル-チベット-中国>の相互連関的実態の解明に不可欠となる、新たな史料や知見の獲得を目指す。 二つ目は、国際公開ワークショップをはじめとした、本研究成果の対外発信と外部評価の取り込みにより、最終年度に予定している本研究成果全体の取り纏めに資する、有益な情報や知見の獲得を行う。 三つ目は、本研究の遂行にそって収集・整理した史料のデジタル化とデータベース構築を精力的に進めて、本研究領域における史料環境の利便性の向上を目指す。 なお、令和元年末から猛威を振るっている新型コロナ感染症(COVID-19)の状況によっては、上述した海外調査実施や国際ワークショップ開催が不可能となる場合もあり得るが、本研究において現地調査は研究の中核をなす極めて重要な柱となっていることから、関係機関の許可を得られれば、可能な限り調査を繰り越す形で対応するとしたいが、それでも実施が困難な場合は、上述調査に関する国内文献の再調査と現地協力者とのより密接な調整を前提とした現地史料の代理収集などの、代替的措置を適宜とりつつ、本研究目的の実現に向けての作業を精力的に進めて行くこととする予定である。
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