研究課題/領域番号 |
19H01334
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
上條 信彦 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (90534040)
|
研究分担者 |
田崎 博之 愛媛大学, 埋蔵文化財調査室, 研究員 (30155064)
宇田津 徹朗 宮崎大学, 農学部, 教授 (00253807)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
高瀬 克範 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (00347254)
田中 克典 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (00450213)
宮田 佳樹 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (70413896)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 稲作 / 弥生時代 / 同位体分析 / 農耕 / 石器 |
研究実績の概要 |
ⅰ.出土イネの顕微鏡・X線CTによる形質・炭化の形成過程の測定とDNAによる更なるイネ品種・品質の特定:イネの北上に貢献した形質として日長に応じて出穂する特性があるため、これらの遺伝子に対し機能に関わる塩基配列変異を出土米においても解析するために、DNAマーカーを開発した。農学生命科学部の実験圃場で各品種のイネを栽培し、それらの炭化実験を行い、形質変化に関するデータを得た。また一昨年度より栽培していたイネを含め、炭素・窒素安定同位体比分析を行い、栽培環境(水田・畠)による変化の品種間による変動を検出した。 ⅱ.津軽平野部の発掘調査による土壌、プラント・オパールなどの微細試料分析、微地形調査:弘前市湯の沢遺跡の発掘調査を実施した。調査の結果、高標高域かつ非水田地帯における弥生時代前期砂沢期の集落跡を検出することに成功した。これによって、低標高域で水田跡が検出された砂沢遺跡と対比可能な資料を得ることができた。垂柳北遺跡、杉館遺跡、高樋遺跡、砂沢遺跡採取(2019年度)についてプラント・オパール定量分析を実施し、今後の試掘計画立案に必要な水田包含層の存否や稲作の可能性についてのデータを明らかにした。 ⅲ.使用痕・付着物分析、圧痕観察:田舎館村教育委員会の協力のもと弥生時代中期の大規模水田跡が見つかった垂柳遺跡出土の土器付着の脂質を分析した。また同遺跡において出土品の整理および悉皆調査を行った。弘前市教育委員会の協力のもと砂沢遺跡出土石器の悉皆調査および使用痕観察を行ったほか、村越潔氏寄託資料を対象として、土器の圧痕調査を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績ⅰでは、栽培環境のほか品種や調理状態を考慮した炭化実験を行い、炭化温度について信頼性の高いデータを得た。新たに設計されたDNAマーカー(Hd1、DTH2、RFT1、DTH8、Hd16、Hd2およびHd4)を設計し、出穂期に関して出土イネの用途や栽培環境を推察できる新たな知見をもたらす。 研究実績ⅱでは、弘前市湯の沢遺跡では津軽地域では数少ない弥生時代前期砂沢期の集落跡であり複数の住居跡や土坑とともに豊富な遺物を検出し、当時の社会構造や生業が分かる資料を得ることかできた。また1960年代に発掘されこれまで不明だった調査地も検出され、当時の資料も同時に評価できることに繋がった。また津軽平野域のプラント・オパール分析によって、これまで不明であった浅瀬石川流域における水田域の南北への広がりと他の河川流域でも水田経営の可能性が示唆され、今年度はさらにデータ数を増やした。 研究実績ⅲでは、砂沢・垂柳遺跡出土の千点以上の石器を整理した結果、剥片の製作技術の変化とイネ科に特徴的な光沢を発見するに至った。また礫石器の残存デンプン分析の結果、多数のデンプンを検出し、これらの成果を学会で発表した。土器圧痕についてはこれまで検出されたデータをまとめ論文発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、イネ種子の形態・DNA・土器付着物の年代および炭素・窒素安定同位体比分析を実施する。DNA分析では出土米に対し、イネの色と早晩性に関するマーカーを検証する。また数年間レベルでの同位体比分析の変化を見極めることによりイネに投与された肥料や養分について検証する。イネ粒形質の分析は塊状のイネについて炭化実験を行いX線CT分析を実施する。 昨年度の調査で良好な成果が得られた弘前市湯の沢遺跡の本発掘調査を行う。昨年度は新型コロナの影響により実施できなかった、田舎館村高樋(1)遺跡、平川市杉館(1)遺跡の試掘調査を行い、全国の研究者による検討会を行う。垂柳遺跡出土資料の悉皆調査を引き続き行い、資料化を行い統計的データを収集する。 津軽平野との比較のために三八上北地域を中心に、土器圧痕分析を実施する。砂沢遺跡の分析を進め、収穫具の可能性があるスクレイパー類・剥片類の使用痕を確認する。なお、新型コロナウィルスによる影響により実地調査ができない場合は、イネ形質の蓄積データの解析やドローンによる空中測量による微細地形分析などを中心に分析を進める。
|