研究課題/領域番号 |
19H01335
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
松本 剛 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (80788141)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シカン / シカン遺跡 / ワカ・ファチョ / モチェ / ワリ / 壁画 / 複合的社会の再建プロセス / LiDAR |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルス感染症の流行もようやく落ち着きを見せ、2022年8月上旬より現地調査を実施した。五ヵ年計画の四年目から調査対象はワカ・ファチョとなる。ファチョは比較的小規模な祭祀用基壇であり、シカン遺跡北部に位置するファチョ=マヤンガ複合の一部をなす。この基壇ではモチェとワリという二つの文化の折衷的な様式の多彩色壁画が見つかっており、モチェからシカンへの過渡期における社会の様相を明らかにしようとする本研究の対象として最適である。 ところが、ファチョは1959年にフォードによって最初に調査されて以来、調査者による報告書が未刊行であり、その位置が不明であった。後にドナンが自らの調査にもとづいてフォードの野帳を再解釈し、その結果が出版されることになったが、その内容にしたがって現地を踏査してもファチョらしき基壇は見つからなかった。シカン遺跡があるポマ森林国立歴史保護区を管理するSERNANPの協力を得てようやくその場所を突き止めたが、基壇の位置だけでなく、形状や大きさ、建築軸もドナン(1978)による記述とは大きく異なっていた。基壇の北側麓で5 x 5mの発掘区を設け、試掘を行ったところ、褌姿で後ろ手に縛られ、跪いた人物をかたどった石製スプーンが出土した。モチェとワリの二つの文化の折衷的な様式であり、本研究の対象であるモチェからランバイェケへの過渡期に使用された基壇である可能性が非常に高まった。 2022年度後半、別のプロジェクトで実施した、ハンディLiDARシステムを用いたシカン遺跡の三次元モデリングの結果が明らかになった。計測後に完成した点群データからデジタル地形モデルを作成したところ、ファチョ=マヤンガ複合の北端近く、夏の発掘区から北西に約700mのところで、ドナン(1978)の記述と完全に一致する基壇が見つかった。現地で確認したところ、これこそがファチョであるとの確信を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度には無事ペルーに渡航することができ、現地調査を実施できた。現地協力者との連携のもと、重要な成果を上げることができた。また、この調査の成果をもとに、学会発表を行っただけでなく、マヤ考古学者として中米メキシコ・カンペチェ州において長年調査を行っている塚本憲一郎氏(カリフォルニア大学リバーサイド校人類学科助教授)と超地域的な比較研究を行うための国際研究シンポジウムを開催した。共通テーマに関する闊達な議論の末、長期的な共同研究の見通しも得られた。このようにして二度にわたる調査延期による研究の遅れは取り戻せたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症の流行は落ち着きを見せたが、2023年3月にペルー北海岸をサイクロンが襲い、暮れには2017年以来の大規模なエルニーニョが発生する見込みである。次年度(2023年度)も無事に現地調査を実施できるのか、現時点では定かではないが、実施可能な場合には、シカン遺跡の三次元モデリングの結果明らかになったワカ・ファチョにおいて8月上旬から6週間の発掘調査を行う。発掘作業と並行して遺物整理作業を行い、発掘調査の後2週間、国立シカン博物館にて土器の肉眼分析を実施する。調査はペルー国内の状況に合わせて日程を調整しながら実施する。野外作業完了後は、速やかに調査の報告書を作成し、ペルー共和国・文化省に提出する。調査結果を国内外で開催される学会にて発表する。
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