6万年前にアフリカで開始され4万年前に完了したとする遺伝人類学に基づく現生人類のアジア拡散説を、石刃技法の出現と拡散を指標とした後期旧石器時代の成立と同一視するこれまでの考古学上の定説は、申請者の研究により再検討が必要となった。拡散ルートには、チベットを境にして北回り(中央アジア・南シベリア・中国北部等)と南回り(インド・東南アジア・オーストラリア等)のふたつのルートがある。これまでの定説は北回りには該当するが、南回りではより早期(10万年前以降)から現生人類が拡散し、考古学的な指標とされてきた石刃技法を有さなかったことが明らかである。この原因は自然環境条件の差異に基づく可能性が高い。
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