研究課題/領域番号 |
19H01340
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
岩本 崇 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (90514290)
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研究分担者 |
上野 祥史 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (90332121)
大賀 克彦 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 特任講師 (70737527)
阪口 英毅 京都大学, 文学研究科, 助教 (50314167)
稲田 宇大 (金宇大) 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (20748058)
諫早 直人 京都府立大学, 文学部, 准教授 (80599423)
吉田 広 愛媛大学, ミュージアム, 准教授 (30263057)
吉澤 悟 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (50393369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古墳時代 / 伝世 / 長期保有 / 復古再生 / 王権 / 銅鏡 / 弥生青銅祭器 / 玉類 |
研究実績の概要 |
研究初年度の2019年度は、「伝世・長期保有」を考古学的に認定する方法を確立することを主たる目的として研究を実施した。そのため、器物の製作年代と副葬(廃棄)年代のずれを丹念に検討することによって、「伝世・長期保有」を実証的に把握することを、古墳副葬品としての鏡、玉、武器、武具、金工品、馬具のほか、弥生青銅器を対象に試みた。その結果、古墳副葬品の場合、製作時期と副葬時期のズレが2小様式となる例までは、入手から副葬に至るまでの保有期間内と理解できるのにたいし、3小様式以上となる例については世代を超えた「伝世」と認定しうる点が明らかとなった。暦年代をおさえることが可能な鏡にみる製作時期と副葬時期のズレからは、約20~30年を超える保有期間の場合が、「伝世」となりうることを実証することができた。 なお、鏡にかんして先行研究では、鏡の文様が不鮮明となった要因をいかに評価するかが、「伝世」の是非を認定するうえで重視されてきた。この点について、文様不鮮明鏡には直径や文様に一定の選択がみとめられること、経過時間に応じて文様が不鮮明になるわけではないことが確認され、単純な経年変化によるものとはいいがたいことが判明した。また、玉類については、経年にともなう形状変化がみとめられる事例から、「伝世・長期保有」と直接的に関連する現象であることが明らかとなった。 弥生・古墳時代に器物の「伝世・長期保有」は確実に存在することを実証するとともに、「伝世・長期保有」の場を特定する方法についてもいくつかの具体例から議論をおこなうことができた。「伝世・長期保有」の場が、流通元(王権など)であった場合と、流通先(地域社会)であった場合には、出土古墳の内容に違いがみとめられることなどを指摘できるようになった。 以上の研究成果を、4回の共同調査と2回の共同研究会を通して、研究代表者・分担者・協力者間で共有した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2回の共同研究会をとおして、研究メンバーから6名が「伝世・長期保有」にかかわる研究報告をおこない、議論をとおして到達点と課題を共有することができた。とくに、研究当初から「伝世・長期保有」の存在が確実視されていた銅鏡と玉類を対象とした研究の実例を示すことにより、武器、武具、金工品、馬具などほかの器物の検討に際し留意すべき点を明らかにしえた点は、大きな成果といえる。とくに、鏡については入手から副葬に至るまでの期間としてどの程度まで通常におこりうるか、特定の鏡式を対象に全体のうちどの程度が「伝世・長期保有」されているのかを明らかにする方法を確立することができた点は特筆されよう。 くわえて、研究計画上は2年目に分析を試みる予定であった、「伝世・長期保有」の場を特定するための分析と議論にも着手しえたのは、当初予定を上回る成果であるといえる。 また、研究を進めるうえで一つの柱としている奈良県大和天神山古墳出土遺物については、全点の実測図作成と写真撮影を完了した。このほか、奈良盆地東南部の前期古墳副葬品について、これまで学界で共有されていない事例が存在することをつきとめ、それらについても出土遺物全点の実測図作成と写真撮影を実施することができた。なお、初年度において代表者はのべ65機関で資料の特別観覧を通して本研究課題にかかわる調査を実施し、多くの知見を集積することができた。 以上に述べたように、基礎資料整備の作業的な部分を完了できた点からも、研究計画は当初以上に進展したと判断することができるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、器物の入手から副葬(廃棄)に至るまでのプロセスを明らかにすることを通して、「伝世・長期保有」を考古学的に認定する方法について分析と議論を進める。とくに、研究1年目には時間の関係で研究成果を研究組織で共有しえなかった武器、武具、金工品、馬具を対象とした議論を研究2年目は進める。これにより、古墳副葬品については、「伝世・長期保有」を認定する方法をおおよそ確立することが可能になるであろう。 また、当初予定していた研究2年目の主たるテーマである、「伝世・長期保有」の場を特定するための方法について、鏡、玉類、武器、武具、金工品、馬具、弥生青銅器を対象に各担当者が検討を進める。 以上の研究成果を、年2回の共同研究会をとおして、研究代表者・分担者・協力者間で共有する。 さらに、研究1年目で完了した奈良県奈良県大和天神山古墳出土遺物についての研究報告、新たに発見した奈良盆地東南部の前期古墳副葬品についての資料報告についても、図版作成や原稿執筆といった作業を進める。 なお、2020年4月現在、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、メンバーが顔をあわせての打ち合わせや、資料調査といった基礎的な作業が実施できない状況にある。したがって、年度前半は研究代表者の統括のもと、研究組織のメンバーは個々に活動できる部分を中心に進めることにし、状況如何によっては年2回の共同研究会をリモート環境で実施するか、年1回として年度下半期に複数日にわたって開催することなども視野に入れて研究を進めることとしたい。
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