遊牧国家の勃興の地であるモンゴル高原では、鉄の存在が遊牧国家にも大きな影響を与えたことが想定されながらも、鉄生産の伝播やその適応の実態は不明であった。そこでモンゴル国トゥヴ県ムングンモリト郡に所在するホスティン・ボラグ製鉄遺跡の発掘調査資料を基礎資料として、冶金学と考古学の両輪で学際的に研究を推進する。 ホスティン・ボラグ遺跡の調査を契機としてモンゴル国内で続々と発見されつつある匈奴の製鉄遺跡の研究成果と比較することで、匈奴の鉄生産の変遷や地域的な差を明らかにする。これらの研究成果に基づいて、遊牧国家である匈奴が鉄やその生産システムをどのように取り入れ、複合的な社会システムとして構築したのか、そしてそれによって匈奴にどのような社会的・文化的な変容が生じたのかを明らかにすることを目的としている。 今年度は、6月にモンゴル国ゴビ地域(ウムヌゴビ県・ドルノゴビ県)の遺跡の踏査ならびに発掘を実施した。残念ながら鉄生産の遺跡を見つけることができなかったが、銅生産に関する大きな成果を得られた。銅鉱石の採掘址や製錬址ではGPS測量や三次元計測を実施した。またフレル・ウネグト3遺跡では銅製錬炉の発掘調査を実施し、モンゴルで初めて銅製錬炉の構造を明らかにし、また採取した木炭の年代測定結果からその帰属時期も明らかにした。調査の成果はFacebookページ” History of Ancient Mongolian Craft Production”に速やかにアップするとともに、国際シンポジウム等で発表した。
|