研究課題/領域番号 |
19H01347
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
嘉幡 茂 京都外国語大学, 国際言語平和研究所, 嘱託研究員 (60585066)
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研究分担者 |
南 博史 京都外国語大学, 国際貢献学部, 教授 (00124321)
市川 彰 名古屋大学, 高等研究院(文), 特任助教 (90721564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トラランカレカ / 古代都市 / メソアメリカ / 世界観 / 物質化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、メキシコ中央高原の形成期終末期(前100~後250年)から古典期前期(後250~450年)における社会変動の解明と歴史復元にある。形成期社会と古典期社会は、一般的にはテオティワカン(前150~後550/600年)における初期国家の出現を代表例として、社会の階層化、集約農耕の発展、交易網の発達といった特徴によって区分される。しかし本研究は、より重要な特徴として、パラダイム・シフトが起こったとの観点から考察を進めている。そして、この変化のデータは、古代メソアメリカ文明において、世界観を表現する機能を持っていたピラミッドから得られると考え、トラランカレカ遺跡(前800~後300年)の領域Aと領域Hに存在するピラミッドで、2020年7月から9月までの間、発掘調査を実施した。 領域Aのセロ・グランデ・ピラミッドの調査からは、最終時期に建造されたピラミッド(II期)とこれより古い時期のピラミッド(I期)の形状に大きな変化があったことが判明した。II期のピラミッドには、「火の神」と「水の神」の両方を崇める物質文化が認められるのに対し、I期では「水の神」のみの文化要素が確認されたことである。 領域Hの大基壇Hの調査では、この基壇は少なくとも5期の増改築が行われており、II期とIII期の形状が大きく異なっていたことが分かった。また、科学分析によって建築資材の強度に改良があったことが認められた。 紀元後70年ごろに起こったポポカテペトル火山の大噴火によって、メキシコ中央高原の社会構造は大きく変化したが、それはパラダイム・シフトという観念体系の根本的な変質にまで及んでいたと主張する貴重なデータを収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】で述べたように、本課題研究の目的を達成していくため初年度の研究成果はある程度得ることができたと考えている。 一方、実現できなかった調査は、トラランカレカ遺跡にある「人工洞窟」でのトンネル調査である。メキシコでは、すべての考古学調査はメキシコ考古学審議会からの許可を得る必要がある。領域Aと領域Hの調査の許可は下りたが、「人工洞窟」での調査が認められなかった理由は以下である。審議会は、崩落の危険性から、あらゆるトンネル調査を現在禁止しており、これを行うには地質調査を行った上で安全性を証明する必要があるためである。代替案を次の【今後の研究の推進方策】で明記する。
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今後の研究の推進方策 |
「人工洞窟」でのトンネル調査は、より効率的に調査を実施していくために採用した方法である。しかし、これを実行するには、計上していなかった予算と時間が必要とされることになり、本研究の進捗は遅れることになる。そのため、トレンチ面積をおおきく広げ、地上から地中(約3mの地点)まで掘り下げていく。 一方、最大の懸念は、コロナウイルスの影響により、本年度は調査自体が実施できない可能性である。現在科研費による出張が認められていないこと、また同様の理由により、メキシコ考古学審議会は活動を休止しているため、8月9月に発掘調査を行う計画を立てていたが、現状では実施は困難である。 そのため、メキシコへの渡航が可能になった場合、トラランカレカ村にある研究施設と提携先のメキシコ国立自治大学・物理学研究所において、遺物の肉眼・科学分析を行う予定にしている。
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