研究課題/領域番号 |
19H01347
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
嘉幡 茂 京都外国語大学, 京都外国語大学ラテンアメリカ研究センター, 客員研究員 (60585066)
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研究分担者 |
南 博史 京都外国語大学, 国際貢献学部, 教授 (00124321)
市川 彰 名古屋大学, 人文学研究科, 共同研究員 (90721564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トラランカレカ / テオティワカン / 世界観 / 古代都市 / メソアメリカ / 物質化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、メキシコ中央高原において何故人々はある特定地域に集中し、都市化が達成されたのかを解明することにある。当該地域では、後2・3世紀頃にテオティワカンで急速に都市化が進み、初期国家が形成されたと考えられている。しかし、先行社会からの文化継承を重視せず、自生的に発展したとの観点から議論が行われている。ここに課題があると判断し、研究代表者は研究に取り組んできた。結果、この社会変動の以前と以降において、無視できない物質文化の類似性を発見した。 令和2年度は、あらゆる自然現象に神々の意思が反映されるパラダイムにおいて、時の為政者は人々もその一部として介入することが可能であるとの知的体系を発展させ、神々と契約できる制度をうみ出したとの仮説を提示するまでに至った。令和3年度は、この仮説をより精緻化する研究を進めた。 世界観の物質化において、その重要な対象がピラミッドであり、同時に洞窟であるとの結論に至った。古代メソアメリカ文明では、権力者集団が登場する前にピラミッドが建造され、これは文明の崩壊まで実践された。ここからはピラミッドは、当該文明圏において、為政者の墓としての役割以上のものが付与されていたことを推測させる。天上界・地上界・地下界の三層から成り立つ世界観の中で、人々は地上界にピラミッドを築くことで天上界の神々と、そして、洞窟を地下界と見立てこの層の神々と交信した。 昨年度の研究から、時代の流れと共に、ピラミッドは自然地形を利用したものから、人工的に建造される過程を理解することができた。メキシコ中央高原では、古典期にはピラミッドは完全に人工建造物として建造される。これは、社会の成熟のみによって達成されたのではなく、人々が生活拠点の中心部にピラミッドそして洞窟を建造することで、より積極的に神々の世界に介入する必要性があったのではないかと議論を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
メキシコで考古学調査を行うには、メキシコ考古学審議会に研究計画書を提出し、許可を得る必要がある。しかしながら、令和2年度と同様に、コロナウイルスの影響により所属研究機関の方針により海外渡航が禁止されていたため、本課題研究の遂行のため要となるメキシコ現地での発掘調査と考古遺物の分析を行うことができなかった。この状況により、令和2年度に提示した仮説の精緻化を行うため、今までの調査から得られたデータの解釈、並びに文献研究を国内で行った。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、本研究の目的を達成するため、以下の3つの課題(①~③)を挙げた(課題①:各建造物の年代推定と内部建造物の透視を基にした物質化の発展過程の理解、課題②:世界観の物質化を可能にした集権化と経済基盤の解明、課題③:周辺の自然景観(丘陵部)とピラミッドの建築方位軸の関連性:水平性の研究)。 しかし、メキシコ現地での調査を実施することができなかったため、文献研究を基に、課題①と課題②の一部しか議論を発展させることができなかった。来年度が最終年度であり時間が限られるため、そして来年度も現地での調査を実施できるか現段階では不明であるため、上記3課題を解明しながら、当初予定していた研究目的の理論的・実践的解明は非常に困難であると判断する。そのため、3課題の修正によって対応することにした。 【研究実績の概要】で述べたように、「本研究の目的は、メキシコ中央高原において何故人々はある特定地域に集中し、都市化が達成されたのかを解明することにある」。これに向け、最も重要になるのが課題②である。今後はこの解明に集中する。特に、トラランカレカ遺跡の「大基壇」部での調査から有益なデータを得られる可能性が高いため、渡墨が可能であればこの地区で発掘調査を実施する。一方、本課題研究の目的の遂行において、現在までの研究の成果と課題②のデータのみでは、地域レベルでの議論の発展は難しい。そのため、文献資料の精査も同時に行い目的の遂行に努める。
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