研究課題/領域番号 |
19H01354
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
国武 貞克 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (50511721)
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研究分担者 |
佐藤 宏之 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50292743)
國木田 大 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任助教 (00549561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | タジキスタン / フッジ遺跡 / 後期旧石器時代初頭(IUP期) / 大型石刃 / ルヴァロワ型尖頭器 / 多層遺跡 / 放射性炭素年代測定 / IUP期の時期変遷 |
研究実績の概要 |
2019年度は、中央アジア西部で最も層位的な堆積環境が良好で重要な遺跡が数多く知られているタジキスタンにおいて収蔵資料調査と主な遺跡の現地踏査を実施した。収蔵資料調査では、タジキスタン科学アカデミー歴史学考古学民族学研究所に収蔵されている中期~後期旧石器時代のほぼすべての遺跡について全点の石器を観察した。主要遺跡の踏査は、フッジ遺跡、ホナコ遺跡、ゴフィラバード遺跡で実施した。タジキスタンの中期から後期旧石器時代資料を詳細に検討した上で、その石器組成から後期旧石器時代初頭(IUP期)の可能性があると判断したフッジ遺跡について、この遺跡で初めて遺跡の中心部において本格的な発掘調査を実施した。 その結果、地表から6.5mの深さまで掘削したところ、ローム化したレス堆積層中から約4,000点の石器と骨が4枚の文化層に分かれて出土した。文化層は十分な層位差をもって明瞭に分かれており、各文化層に地床炉が複数面で検出されたため、大きな攪乱の無い極めて良好な遺存状態であったと考えられた。そして大型石刃とルヴァロワ型に類似する尖頭器が特徴的な組成となる。石核はルヴァロワ石核がみられたが、それに混じって角柱形の石刃核もみられた。 このため石刃はルヴァロワ石核から剥離されたものに加えて、特に大型のものはブロック状の原石を素材にした角柱状の石刃核から剥離されたものも多いと考えられた。中期と後期の双方の技術が混在する特徴からIUP期の可能性が極めて高いと評価された。また第3文化層に大型石刃が多く、上層の文化層ほど減少するため組成の時期変遷も想定された。 地床炉から多くの良好な遺存状態の炭化材を採取したため、放射性炭素年代測定分析を実施したところ、IUP期の年代が得られた。技術的特徴と年代がIUP期の特徴とよく一致しため、フッジ遺跡は中央アジア西部で初めての確実なIUP期の石器群であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タジキスタンにおける旧石器資料はV.A.ラノフにより50年間で約30万点収集された。今年度はこのうちの大半を占める中期~後期旧石器時代のほぼすべての資料を詳細に観察し、カザフスタンにおける当該期の様相を把握することができた。その上で、タジキスタンにおけるIUP期の可能性が最も高いのがフッジ遺跡であることを理解し、これに加えて、その遺跡の中心部において本格的な発掘調査を実施したことは、当初の予定以上の進展であった。さらに、フッジ遺跡の発掘調査においては、厚さ3m以上の分厚い包含層を完全に掘り上げ、発掘を完全に終了させた。 そして、その成果は既に述べたように、石器組成と石器製作技術からみても、放射性炭素年代からみてIUP期でほぼ間違いない成果が得られたことは、極めて大きな成果であった。中央アジア西部では、確実なIUP期の石器群は知られていないことから、今年度に実施したフッジ遺跡の発掘調査は極めて重大な成果であり、ユーラシア旧石器研究にとって非常に大きな影響力を有している。 以上から、今年度の調査研究成果は、当初の計画以上に進展したということができる。
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今後の研究の推進方策 |
フッジ遺跡の発掘調査により極めて重大な資料を獲得することが出来た。今後は、ち密にデータを整理してこの石器群がIUP期に帰属することを正しく提示しなくてはならない。まず第一に約4,000点の出土資料を整理分類することが必須である。その上で、石器組成について石器製作技術を理解するために不可欠な統計データの作成を行う必要がある。また多くの保存状態の良い骨が出土したため、これらの種同定分析が必要である。また、地床炉から採取した炭化材をさらに分析し、確実な放射性炭素年代値を増やしていく必要もある。また試料は採取したが2019年度は分析が出来なかったOSL年代分析も実施する必要がある。放射性炭素年代値と比較して、フッジ遺跡の確実な年代を把握する必要がある。 当面は、タジキスタンにおけるフッジ遺跡の発掘資料の整理と科学的分析を進めていく。その上で、カザフスタン南部のIUP期の可能性が把握されたチョーカン・バリハノフ遺跡第8・9文化層の石器群と比較を行い、中央アジア西部におけるIUP期の実態を把握することが、その先に想定される調査研究方針となる。
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