研究課題
2013年に礼文島浜中2遺跡から出土したオホーツク文化終末期の人骨から取得した高精度のゲノムデータを対象に、主成分分析(PCA)やf3テスト、系統解析等の手法を使って近隣集団との遺伝的近縁性を評価し、ADMIXTURE解析、 Dテスト等の手法により、過去に起きた集団間の混血イベントの検出を試みた。また、local ancestry tractsの長さの分布から混血年代を推定 した。その結果、オホーツク文化人集団の形成に、カムチャツカ集団、縄文集団、アムール集団の3系統の祖先集団が寄与したことを明らかにした 。各集団の混血年代は、カムチャツカ集団と縄文集団の混血が2000年前、アムール集団の混血が1600年前という推定結果を得た。最終的に、admixture graphの枠組みで、オホーツク文化人と近隣集団の歴史をゲノムデータに基づいてモデル化することに成功した。現在、本成果を国際英文誌へ投稿するために準備中を進めている。2017年に同じく浜中2遺跡から出土したオホーツク文化初期の人骨については、側頭骨岩様部からDNA抽出を行い、次世代シーケンスを実施可能な濃度のDNAを回収することに成功した。また、本研究で取得するゲノムデータと比較するための既報の古代北東アジア人のゲノムデータを収集して解析を行い、今後実施予定の集団遺伝学的解析のための環境整備を進めた。さらに、ロシア‐モンゴル国境付近の遺跡から出土した匈奴期の歯を2個体分取得することができた。これらはシベリア内陸部と沿岸部 の古代集団の遺伝的特徴を比較するうえで重要な試料となりうる。そのうち、1個体から次世代シーケンシングを実施可能な濃度のDNAを回収することができた。
2: おおむね順調に進展している
2013年度出土のオホーツク文化終末期の人骨については一通りの解析を終え、論文投稿のための準備も最終段階に入っている。また、2017年出土のオホーツク文化初期の人骨についてもDNA抽出に成功し、すぐにでも次世代シーケンスを実施できる状況にある。比較のためのデータ収集と1次解析も概ね終えているため、順調に進展していると判断した。
2017年出土のオホーツク文化初期の人骨から回収したDNAについて次世代シーケンシング用ライブラリーを調整し、マップ率等の評価を行ったうえで、ハイスループットシーケンスを実施する。シーケンスデータからゲノムワイドな遺伝子型データを取得した後に、オホーツク文化の初期と終末期でオホーツク文化人集団のゲノム構成に変化があったかどうかを評価する。本年度は、PCAやADMIXTURE解析などから、時代間で混血率の差などがみられるかどうかについて簡易的に検証を行うこととする。また、ロシア‐モンゴル国境付近の遺跡から出土した匈奴期の歯を2個体分取得することができ、そのうち1個体からDNAを回収することができたので、こちらについても次世代シーケンス用ライブラリーを調整し、マップ率、リードの重複率等評価した上で、大規模塩基配列決定を行う。
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