2023年に、浜中2遺跡から新たにオホーツク文化初期の地層から人骨(NAT005)が出土したため、側頭骨錐体部からDNA抽出を試みたが、ゲノム解析が実施可能な量のDNAを回収することはできなかった。 既にDNA抽出およびゲノムシーケンスを実施済のNAT004について、引き続き集団遺伝学的解析を実施した。昨年度までの解析において、NAT004は縄文祖先要素とカムチャツカ祖先要素の混合個体としてモデル化することができ、縄文・カムチャツカ・アムール3系統の祖先要素の混合としてモデル化されたNAT002とは異なる祖先要素割合を示すことが分かっていたが、今年度実施したqpAdmモデリングでは、NAT002はNAT004とアムール要素との混血個体として説明することも可能であった。このことから、NAT004はアムール盆地からの移住の影響を受ける以前の道北地域の集団の遺伝的特徴を代表できる個体であると考えられる。 また、NAT004ゲノムからアムール要素が検出されない原因が1×程度のローカバレッジデータである可能性があるか確かめるために、NAT002のゲノムシーケンスデータをダウンサンプリングして様々なカバレッジのデータを作成し、同様にqpAdmモデリングを行った。その結果、カバレッジ0.5×程度までは、3-way admixture modelの方が2-way admixture modelよりもモデルのデータへの適合度が有意に良かった。しかし、カバレッジが0.1×程度まで低くなると、3-way admixture modelと2-way admixture modelの間に有意差がみられないケースが観察された。NAT004ゲノムが本当に2-way admixture modelで説明可能かどうかについてはさらに詳細な検討が必要である。
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