研究課題/領域番号 |
19H01359
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
惠多谷 雅弘 東海大学, 情報技術センター, 技術職員 (60398758)
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研究分担者 |
鶴間 和幸 学習院大学, 文学部, 教授 (50143144)
村松 弘一 淑徳大学, 人文学部, 教授 (70365071)
長谷川 奏 早稲田大学, 総合研究機構, 客員上級研究員(研究院客員教授) (80318831)
徳永 里砂 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 客員准教授 (00458936)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺跡探査 / 衛星データ / 紅海沿岸 / 碑文 |
研究実績の概要 |
サウジアラビア紅海沿岸地域の港市遺跡や碑文遺跡をテストサイトに、歴史文献などで存在が指摘されているもののいまだ所在が確定していない重要遺跡の探査に挑んでいる。令和1年度の研究では、ローマ時代からイスラーム時代にかけての港市の可能性もある紅海沿岸の住居遺跡ハウラー(al-Hawra)を対象に、その後背地域の古代路の調査に重点を置いた。 ハウラーを取り囲む山岳地帯には、かつての交易路や巡礼路がネットワーク状に存在しており、それらが通る岩山の壁面には多数の碑文や岩絵(以下まとめて碑文と呼ぶ)が刻まれている。ハウラーの歴史的変遷や遺跡の性格の解明には、そうした過去の刻文解読から当時の人々の生活環境を理解し、それらの分布を広域的にとらえることで、これまで知られていないハウラーと内陸都市を結ぶ新たな交易路や巡礼路を歴史的な視点で検証していくことが重要である。そこで本研究では、広域情報収集が可能な衛星リモートセンシングデータと古環境の理解から、碑文が存在する岩山の特徴と立地条件を絞り込み、それによってこれまで考古学者の勘や経験などなどに頼っていた碑文調査の効率化に取り組んでいる。 今年度の特筆すべき成果として、タブーク州の山岳地帯を対象に2020年2月~3月に実施したグランド・トゥルースで、Landsat8号衛星データの画像特徴量解析で絞り込んだal-Ghawt地区など5か所の調査地点において、サムード文字、アラビア文字、岸壁岩絵の集中を確認したことが挙げられる。確認した各碑文の新規性についてはサウジアラビア観光遺産局SCTHによって今後検証されることになるが、衛星データの画像解析によって碑文の存在地点特定に成功したのは本例がサウジアラビア考古学史上初めてと思われ、この成果は本研究の主題である科学的な遺跡探査手法の確立と調査の効率化に大きく寄与するものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サウジアラビアの遺跡探査は大変順調であり、期待通りの成果が得られている。特に、既知の碑文存在地点の立地環境理解とLandsat8号データによる地表特徴抽出によって絞り込んだ5地点で碑文の集中を確認できたことは、本研究で採用している宇宙考古学と呼ばれるリモートセンシング技術を用いた新たな科学的手法の導入がサウジアラビアの碑文探査に有効であることを実証しており、その考古学的意義は極めて高い。 一方、当初予定していた中国新東門遺跡の調査に関しては、新型コロナウィルス感染拡大の影響でグランド・トゥルースは実施できていないものの、その準備となる画像収集及び解析は問題なくできている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究では、2019年度に引き続き、サウジアラビア紅海沿岸地域の港市遺跡や碑文遺跡、及び秦東門遺跡の有望地点とみられる中国連雲港市(東海廟遺跡周辺)をテストサイトに、歴史文献などで存在の可能性が指摘されているもののいまだ所在が確定していない重要遺跡の探査に挑む。なかでもストラボンの「地誌」などで言及されているローマ時代からイスラーム時代にかけて紅海沿岸に存在していた未発見港市発見のための道筋をつける。 具体的には、前年度までの調査で、Landsatなどの衛星データの画像特徴量解析が紅海沿岸の碑文探査や分布調査に有効であることが分かってきたが、今年度は調査対象地域をさらに拡大しながら、調査手法の精度向上を図る。また同時に、これまでの研究で港湾施設の存在が明らかとなっている紅海沿岸の古代都市ハウラーと、衛星データの画像特徴量解析によって明らかになったハウラー後背地の碑文分布状況及びそれらの刻文解読、さらに文献調査などをもとに、古代から初期イスラーム時代の紅海沿岸の主要な港湾都市遺跡と内陸都市を結んだルートを通時的視点から明らかにしながら、ストラボンの記述にある紅海沿岸の未発見港市とハウラーの関連性の有無や時代的な背景解明にもつなげていきたい。 なお、グランドトゥルースでは、中国は中国の専門家、中東は中東の専門家が役割分担して調査するといった既成概念をなくし、基本的に研究者全員が専門地域や分野を超えた文理融合チームとして両サイトを実際に踏査し、意見交換や情報共有しながら、グローバルな視点からの遺跡環境理解にチャレンジする。グランド・トゥルースは新型コロナウィルス感染が終息し、サウジアラビア及び中国への渡航が可能になれば実施するが、不可能な場合は衛星画像解析を主体に研究者間での情報交換を進める。
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