研究課題/領域番号 |
19H01367
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館 |
研究代表者 |
宮崎 幹子 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (50290929)
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研究分担者 |
谷口 耕生 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (80343002)
野尻 忠 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (10372179)
山口 隆介 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 主任研究員 (10623556)
田良島 哲 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 研究員 (60370996)
冨坂 賢 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 課長 (40415617)
恵美 千鶴子 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 室長 (60566123)
樋笠 逸人 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部文化財課, アソシエイトフェロー (70866384)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文化財保護 / 帝国博物館 / 近代建築 / 設計図 / 工事録 / 古社寺保存法 |
研究実績の概要 |
2020年度は下記の調査研究を実施した。なお、2021年2月に旧帝国奈良博物館本館の設計図(奈良国立博物館蔵「内匠寮奈良博物館建築工事図面」。以下、設計図)をテーマとした特別陳列を開催したため、一部の調査は展覧会の事前調査を兼ねることとなった。 奈良国立博物館館史料の整理と目録作成、翻刻を継続しておこない、開館以降の社寺からの寄託品の受け入れや展示内容を調査した(通年)。 帝国奈良博物館の設置(明治22年)および建物の建設(明治25~27年)、開館(明治28年)に関連して、次の調査を実施した。奈良県立図書情報館蔵「奈良県庁文書」。東京大学工学部建築学科蔵「片山東熊卒業設計」、「同卒業論文」、「工部大学校関係資料」。宮内庁宮内公文書館蔵「京都及奈良博物館建築工事録」(以下、工事録)(以上、8月)。設計図の調査を外部研究者(京都女子大学斎藤英俊氏、東京工業大学平賀あまな氏、東京国立博物館矢野賀一氏ほかの協力を得ておこなった(9月~)。設計図の展示方法に関連して、次の調査をおこなった。高島屋史料館 近代建築関係資料(9月)。東北歴史博物館 建築模型および指図等(10月)。 調査成果の一部を反映させて、特別陳列「帝国奈良博物館の誕生―設計図と工事録にみる建設の経緯―」(2021年2月~3月)を開催した。同展では、文化財保護法制の成立過程と奈良県下の状況、そして保護施設である博物館の設置から建設、開館までの流れを、設計図などの展示によって具体的に紹介した。観覧者の関心を喚起するとともに、歴史、美術史、建築史の研究者からも貴重な意見や反響が寄せられた。 前年度に引き続き、展覧会の会期中に研究分担者、協力者による研究会の開催を計画していたが、コロナ禍により中止とし、研究者の個別の観覧と情報共有にとどめた。 その他、近代写真史に関する調査をおこなった(3月。名古屋市美術館)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、奈良国立博物が保管する近代史料を主な材料として、明治時代にはじまるわが国の文化財保護法制成立と帝国博物館創設との関係の解明を目指している。今年度は、前年度より継続して寄託品台帳や列品録等の史料の調査に加えて、外部研究者の協力を得て、奈良国立博物館蔵の設計図や宮内庁宮内公文書館蔵の工事録の調査を実施し、帝国奈良博物館の設置から建物の建設過程にも研究の範囲を広げることが叶った。 設計図と工事録の調査では、帝国奈良博物館の設計と建設において、耐震性、採光、雨仕舞の3点が主要な課題として認識され、それらの克服がわが国における「博物館」という新しいビルディングタイプ誕生の軌跡と重なることが明らかとなった。設計図と工事録には、文化財保護という概念を「制度」と「施設」に具現化してゆく歩みが記録されており、これらが文化財保護法制史、日本近代建築史上においても重要な史料であることが確認された。また、当該時期(帝国博物館設置の明治22年から帝国奈良博物館開館の明治28年まで)が、文化財保護法制史上において重要な画期であったことも確かめられた。 設計図と工事録を展示した展覧会には、上述の研究成果を反映させることが出来たが、設計図と工事録をまとまったかたちで初めて一般に公開する機会となり、多くの反響が寄せられた。会期中には、コロナ禍ではあるものの、1万2千人を超える観覧者が訪れ、研究成果の社会への還元にも効果があった。また、奈良国立博物館として2回目となる「ニコニコ美術館」によるネット配信を実施し、のべ2万4千人以上もの視聴があった。展覧会図録は400冊以上を売り上げ、建築史研究者からも好評を得た。 なお、2019年度の特別陳列「重要文化財 法隆寺金堂壁画写真ガラス原板―文化財写真の軌跡―」の開催ならびに同展の図録について、2020年度にアート・ドキュメンテーション学会賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
奈良国立博物館館史料(寄託品台帳、列品録、設計図等)を中心に調査ならびに整理、目録作成、翻刻を進め、明治時代初頭から中期頃の奈良県の状況と、博物館創設の実態について、引き続き把握と解明に努める。 また、当館には日本美術院が明治30年代から戦前にかけて仏像を中心とする文化財の修理をおこなった記録「日本美術院彫刻等修理記録」(簿冊、古写真)があるが、これらの調査にも着手しているところである。 帝国奈良博物館に直接的に関係する文化財にとどまらず、奈良県下を中心に社寺の宝物類が近代に歩んだ道筋をたどり、宝物から文化財へと人びとのまなざしが変わり、文化財保護という制度が確立した過程に幅広く目を向けてゆく計画である。
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