ダイナミック降水アイソスケイプモデル改善により降水同位体比の全球分布の再現性が向上した。月単位の全球降水同位体比観測データにもとづくIsoMAPとの年平均値での比較では、乾燥地域を除けば概ね0.7以上の相関係数が得られた。乾燥地域では雨滴落下中の再蒸発によって降水同位体比が変化している可能性が高く、計算結果の信頼性は全般的に高いと評価できる。また、観測点に乏しい大洋上の空間分布パターンがより現実的なものとなり、日変動パターンの再現性も高い。したがって、現時点で世界最高レベルの降水同位体比データセットが構築できたと言える。しかしながら、内陸部の季節変化パターンの再現性には未だ課題が残されている。 本モデルでは地形の影響が考慮されていないため、離島での同位体比観測結果との整合性は高くなる。そこで、宮古島・石垣島・南大東島・対馬島・壱岐島および九州島の観測データと本モデル出力との比較を行った。その結果、南大東島・壱岐島では内陸効果・高度効果が共に小さいものの、石垣島・対馬島では無視できず、九州島ではかなり効果が大きいことが明らかとなった。これらの結果から、ある程度の規模の島で起伏が大きい場合には内陸効果・高度効果を考慮した補正が不可欠であることが判明した。 そこで、北海道東部では流入河川水の同位体比観測結果を用いて上記効果を考慮したアイソスケイプモデルを構築し、屈斜路湖への流入水量に対する湖面蒸発量の割合を推定した。その結果は、熱収支・水収支にもとづく推定結果と誤差数%の範囲で一致した。 さらに、中部山岳域に関して構築した地下水アイソスケイプモデルを用いて地圏水成分を含む温泉水の起源推定を行った研究成果を国際学術誌にて公表した。さらに、同様のアプローチの研究を有馬温泉に適用し、地圏水成分の割合が地震と同調して変化している傾向を発見し、この成果についても国際学術誌に投稿した。
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