研究課題/領域番号 |
19H01386
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
百瀬 響 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (10271727)
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研究分担者 |
遠藤 匡俊 岩手大学, 教育学部, 教授 (20183022)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 樺太アイヌ文化 / 北方交易圏 / 北海道ー樺太交易 / 東北ー北海道交易 / サハリン州郷土博物館 / 樺太アイヌ婚姻圏 / 文化復興 |
研究実績の概要 |
東北・北海道の日本海沿岸地域と樺太における「北方交易圏」の交流の実像を通時的に明らかにする上で、東北-北海道日本海沿岸地域-樺太に存在した交易圏の「北端」の資料について、(A)樺太アイヌ資料国外調査(第1回)では、サハリン州郷土博物館において研究代表者・分担者と研究協力者である様々な分野の研究者・博物館学芸員・樺太アイヌ(エンチウ)協会員が合同調査を行い、同協会員の曾祖母が所蔵していた資料が同館に複数所蔵されていることが判明した。同協会員が調査結果に基づき復元・作成した資料は、百瀬が研究分担者をつとめる科研(課題番号:17K18603)フォーラムの際に公開したほか、後述の報告書で目録化した。 (B)国内史料調査では山形での予備調査を行った。その結果、鶴岡市郷土資料館に山形と北海道間の交易に関する未整理史料が複数あることが判明した。これらの史料については、次年度の調査研究課題とした。 (A)(B)について、報告書『北海道・東北と樺太におけるアイヌ・和人間の北方交易圏に関する実態研究』vol.1を作成し、樺太アイヌ居住地の地理学的論考、衣服組成分析、近世以降の東北-蝦夷地交易に関する論文を掲載したほか、物質文化復興とその教育資料化について論考を掲載した。 (C)樺太アイヌの婚姻圏については、国内のアイヌ遺骨問題が発生したため、平成31年度の樺太アイヌ集住地でのインタビュー調査を断念し、札幌市内で聞き取りを行った。これらの調査結果は、個人情報の観点から発表できない可能性があるため、未公開としている。 今回、研究協力者である樺太アイヌ協会員らは、各自調査研究の成果として資料を復元・作成した。これは比較的小規模な集団に対し「失われた」文化を再興を促すための有効なモデル構築を探る試みとして、研究論文と同様、調査結果に基づく作品を今後の文化伝承・復興活動に生かすことを条件とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で想定する「北方交易圏」の北端である樺太については、従前の歴史および戦争の影響により、樺太アイヌの子孫である人々の手には、史資料が存在しない。今回の調査で、サハリン州郷土博物館に、樺太アイヌ協会員の先祖が使用した資料が複数発見されたことによって、アイヌの中でも比較的小規模な集団である樺太アイヌの子孫たちが、今後文化復興活動を行い、自らの子孫に継承する機会を提供することができたと考える。また、「合同調査」の形で樺太アイヌの子孫達が、自ら資料を復元するために精査したことによって、資料に対してこれまで以上の「発見」があったとの感想を得た。以上の点で、結果的に当初の計画以上の進展があったと考える。なお、本研究は物質文化(有形文化)に関するものであるが、無形文化についても「舞踊の復元」に関する研究を並行して行ったことによって、文化を再興する一定程度の効果を果たしたと考える。 国内史料に関する予備調査の結果を受けて、次年度以降に成果を出すことになったが、報告書には、今年度調査の成果に加え、多くの研究上の進展があった。とくに、研究協力者である博物館学芸員らは、地元史資料の研究成果を報告書に発表した。これらの成果は、長年のフィールドワークによる詳細な研究であり、その価値は大きい。 以上、一部個人情報の観点から発表できない可能性がある研究課題があるものの、今後の史料調査につなげることができたこと、比較的小規模な集団による文化再興活動のモデル構築の観点を提供しえたこと、さらにこれらの研究成果を、一般の教育文化活動に還元する方策を示し得たと考えられる。したがって、進捗状況を(1)当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、(A)国外調査、(B)国内史料調査(山形県)、史資料予備調査(秋田県、岩手県、青森県)、(C)解読・研究を行い、論文を作成する計画である。 (A)樺太アイヌ資料国外調査(第2回):昨年度のサハリン州郷土博物館調査の成果としては、とくに「ピウスツキ コレックション」の中に、調査に参加した「樺太アイヌ(エンチウ)協会」の先祖が所有していた資料が発見された。本研究が対象とする北方交易圏の「北端」である樺太アイヌ資料は、北海道に住む樺太アイヌの子孫達には継承されておらず、かつ文化伝承も行われていないため、所有者と子孫の関係性を明確化しうる資料調査により、近代史と物質文化の接続をはかることを本年度の目的の一つに据える。したがって、本年度はロシア民族学博物館(サンクトペテルブルグ市)の同コレクションを調査し、日本との交易を示す資料の存在を確認すると共に、北海道在住の樺太アイヌ系住民の祖先が所有していた資料があるかどうか確認する。 (B)国内史資料調査 平成31年度予備調査結果から未整理資料の存在が判明した、鶴岡市立郷土資料館で調査、撮影、目録作成を行い、その後解読作業を開始する(調査は1週間程度を予定しており、文書解読の素養ある学生らの補助も得て、集約的な調査を行う予定である)。ほかに、他の東北部、すなわち秋田県・青森県・岩手県の諸地域において、研究代表者、研究分担者・研究協力者が史資料に関する予備調査を行う。 以上のような国外・国内調査については、史資料調査研究が再開できるようになり次第、調査を開始する。その間、研究代表者・分担者・協力者は、これまでの史資料収集に基づく(C)解読・研究を各自進め、その結果を、報告書『北海道・東北と樺太におけるアイヌ・和人間の北方交易圏に関する実態研究』vol.2として発表することを予定している。
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