• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実績報告書

MDG5達成に向けたアジアのマタニティ政策の検証-脱医療化とポジティブな出産経験

研究課題

研究課題/領域番号 19H01390
研究機関奈良女子大学

研究代表者

松岡 悦子  奈良女子大学, アジア・ジェンダー文化学研究センター, 協力研究員 (10183948)

研究分担者 浅田 晴久  奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (20713051)
阿部 奈緒美  奈良女子大学, アジア・ジェンダー文化学研究センター, 協力研究員 (20848460)
曾 ケイエ  奈良女子大学, アジア・ジェンダー文化学研究センター, 特任助教 (30848552)
青木 美紗  奈良女子大学, 生活環境科学系, 講師 (50721594)
五味 麻美  川崎市立看護短期大学, その他部局等, 講師 (70510246)
Hanley Sharon  北海道大学, 医学研究院, 特任講師 (80529412)
諸 昭喜  国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 助教 (80848359)
嶋澤 恭子  神戸市看護大学, 看護学部, 准教授 (90381920)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード出産 / 帝王切開 / MDGs / 医療化 / 母乳 / モビリティ― / COVID-19 / 産後
研究実績の概要

バングラデシュでの現地調査ができなかったため、2021(令和3)年度に現地の調査助手に依頼して、調査地の中から2つの村を選び、産後の女性を訪問して、出産・産後の状況、出産費用の出所、COVID-19 によるモビリティの変化について質問紙調査を行った。12か月間の間に626人の産後の女性からデータを得た。
その結果、女性たちの62%が自宅での出産を意図していたが、自宅での出産を果たしたのは33%であり、67%は病院での出産となっていた。また介助者については、TBAであるダイを予定していたのが21%、医師を予定していたのが39%だったが、結果的にダイの介助を受けたのは12%、医師の介助は67%であった。また帝王切開率は全体の60%であり、病院で出産した人の90%に達した。出産場所と出産様式は、授乳の状況と有意に関連し、自宅で経腟分娩を行った女性は母乳のみを与える割合が高く、授乳に問題を抱える割合が低かった。出産費用については、事前に貯蓄をする人もいたが、病院で帝王切開になった場合は自宅出産の約10倍の支出となるため経済的な負担が大きく、産後の儀礼を省略する人が増えていた。COVID-19が外出頻度に与えた影響は、女性より男性に強く表れ、もともと敷地内で過ごすことが多かった女性への影響は少なかった。
以上のことから、MDGsの目標である母子の死亡率を減らすための政策は、出産の医療化を進める結果となり、病院分娩と帝王切開率の上昇を招き、母乳栄養の低下をもたらす結果になっている。その理由として、公立病院が時間的にもマンパワーの点でも不十分な対応しかできないために、私立(民間)病院での出産が増え、私立病院は利益を上げるために帝王切開に依存していることがある。また、出産を医療化しようとする政府の政策が、長期的には母子の健康への脅威となっている可能性があることは、重要な指摘と言える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

COVID-19によって海外調査が不可能となったものの、現地の調査助手に依頼して、コロナ禍でも質問紙調査を実施してもらうことができた。質問紙調査は、村内での移動の制限がなされた期間を除き、厳重な感染対策のもとに、産後の女性の家庭を訪問する形でなされた。その点では、コロナ禍の影響を受けつつも、現地の女性たちの状況を知ることができた点で成果があったと言える。
ただし、質問紙を介しての調査結果であり、文化人類学的な参与観察や聞き取り調査ができなかった点では十分とは言えない。
また論文や原稿を書くことは可能であったが、学会発表や研究会の機会が大きく制限されたため、研究が進展した実感を得られなかった。

今後の研究の推進方策

今後は、現地調査を行い、質問紙調査だけでは見えない部分を実際に確かめる作業を行う。たとえば、以下のような点である。
1.出産介助者として、伝統的な介助者であるダイ以外に、SBA(Skilled Birth Attendant)、村医者、FWV(Family Welfare Visitor)がいることがわかった。これらの多様な介助者が出産にかかわるようになったプロセスや、彼女ら(男性も女性もいる)の協力関係について明らかにする。
2、バングラデシュでは製薬産業が国家の重点産業になっていることもあり、妊産婦も含めた住民が薬を簡単に手に入れられるようになっている。これらの薬がどのように使われているのか、住民や医療提供者の薬の認識について調べ、薬の健康への影響についても明らかにしたい。
3.産後の女性たちが、自身の健康状態について、weakと表現することが多くみられた。医療化された出産が女性たちの身体感覚を変化させている可能性がある。したがって、医療化された出産が死亡率の減少に貢献しているとする面だけではなく、それが女性の経験をどのように変化させているかを明らかにする。

  • 研究成果

    (28件)

すべて 2022 2021 2020 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 11件、 招待講演 7件) 図書 (3件) 学会・シンポジウム開催 (2件)

  • [国際共同研究] Dhaka University(バングラデシュ)

    • 国名
      バングラデシュ
    • 外国機関名
      Dhaka University
  • [国際共同研究] Gadjah Mada University(インドネシア)

    • 国名
      インドネシア
    • 外国機関名
      Gadjah Mada University
  • [雑誌論文] 質的研究のリアル-ナラティヴの境界を探るー質的研究をめぐる ナラティヴの境界を探る 日本での出産を経験したムスリム外国人女性たちの語りから2022

    • 著者名/発表者名
      五味麻美
    • 雑誌名

      ナラティヴとケア

      巻: 13 ページ: 81-88

  • [雑誌論文] 母乳・フェミニズム・授乳フォト―アメリカと日本の比較より2021

    • 著者名/発表者名
      松岡悦子
    • 雑誌名

      アジア・ジェンダー文化学研究

      巻: 5 ページ: 39-51

  • [雑誌論文] 台湾における母乳哺育政策の推進と女性たちの授乳経験2021

    • 著者名/発表者名
      曾 璟蕙
    • 雑誌名

      アジア・ジェンダー文化学研究

      巻: 5 ページ: 53-71

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] バングラデシュ村落の女性のリプロダクティブ・ヘルス2022

    • 著者名/発表者名
      松岡悦子
    • 学会等名
      国際ジェンダー学会
  • [学会発表] Reconsidering Healthcare for Women in Rural Bangladesh and in Japan: Rights or Obligation?2022

    • 著者名/発表者名
      Etsuko Matsuoka
    • 学会等名
      国際シンポジウム「アジアの社会におけるヘルスケアの現在―子どもから高齢期まで
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] バングラデシュ農村部における女性の薬の使用2022

    • 著者名/発表者名
      諸昭喜
    • 学会等名
      国際ジェンダー学会
  • [学会発表] 母乳か粉ミルクか:バングラデシュ村落の事例から2022

    • 著者名/発表者名
      曾 璟蕙
    • 学会等名
      奈良女子大学・ジェンダー・レ クチャーシリーズ第1回
    • 招待講演
  • [学会発表] Culturally Appropriate Maternity Care(文化的に適切な助産ケア)の概念分析2022

    • 著者名/発表者名
      五味麻美
    • 学会等名
      第42回日本看護科学学会学術集会
  • [学会発表] Impact of MDGs on Reproductive Health of Women in Rural Bangladesh. Croatia.2021

    • 著者名/発表者名
      Etsuko Matsuoka
    • 学会等名
      IUAES 2020,
    • 国際学会
  • [学会発表] The impact of Covid-19 on society in Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Sharon Hanley
    • 学会等名
      The societal Impact of Covid-19 in Japan and Indonesia
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Perspectives on health, though Covid-19 Pandemic in Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Che Sohee
    • 学会等名
      2021 Annual Meeting of Anthropology of Japan in Japan
  • [学会発表] バングラデシュにおける経済状況と出産に関する一考察-地域NGOが活動するKhalia村とRajor村を事例に2021

    • 著者名/発表者名
      青木美紗
    • 学会等名
      日本家政学会関西支部第43 回
  • [学会発表] 大学院教育における「国際助産活動論」の実際:ラオスをフィールドとして2021

    • 著者名/発表者名
      嶋澤恭子
    • 学会等名
      第35回日本助産学会
  • [学会発表] The rice agriculture development and severe flood history since the late 20th century in Bangladesh2021

    • 著者名/発表者名
      Jun Matsumoto and Haruhisa Asada
    • 学会等名
      The Sixth Biennial Conference of East Asian Environmental History
    • 国際学会
  • [学会発表] Regional characteristics of rice-wheat cropping system and stubble burning in Punjab2021

    • 著者名/発表者名
      Haruhisa Asada, Takahiro Sato, and Kamal Vatta
    • 学会等名
      Aakash Workshop
    • 国際学会
  • [学会発表] Building a Culturally Appropriate Maternity Care Model for Muslim Women in Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Mami GOMI, Yasuhito KINOSHITA, Erika OTA
    • 学会等名
      ICN International Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] The process by which foreign residents in Japan form a culturally appropriate condition during pregnancy and childbirth: Case of Muslim women2021

    • 著者名/発表者名
      Mami GOMI, Yasuhito KINOSHITA, Erika OTA
    • 学会等名
      ICN International Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Covid-19: The situation in Japan.2020

    • 著者名/発表者名
      Sharon Hanley
    • 学会等名
      Seminar: The Impact of Covid-19 in Japan and Bangladesh
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Impact of Covid-19 pandemic on socio-economic activities in Japan2020

    • 著者名/発表者名
      Haruhisa Asada
    • 学会等名
      International Webinar on Impact of Covid-19 pandemic on socio-economic activities with special reference to Japan and India
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Highland-lowland interaction in the Ganges-Brahmaputra-Meghna River Basin: Floods and rice production2020

    • 著者名/発表者名
      Jun Matsumoto and Haruhisa Asada
    • 学会等名
      IGU India International Conference on Global to Local Sustainability & Future Earth
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Rainfall variations, floods and their effects on rice production in the Ganges-Brahmaputra River Basin2020

    • 著者名/発表者名
      Jun Matsumoto, Haruhisa Asada, Azusa Fukushima, and Hironari Kanamori
    • 学会等名
      International Webinar on Climate Change, Geo-hazards and Sustainable Development
    • 国際学会 / 招待講演
  • [図書] アジアの出産とテクノロジー2022

    • 著者名/発表者名
      白井千晶、松岡悦子他
    • 総ページ数
      247
    • 出版者
      勉誠出版
    • ISBN
      978-4-585-32514-7
  • [図書] 想像する身体 下2022

    • 著者名/発表者名
      安井眞奈美、ローレンス・マルソー、松岡悦子
    • 総ページ数
      334
    • 出版者
      臨川書店
    • ISBN
      978-4-653-04632-5
  • [図書] Environmental Change in South Asia: Essays in Honor of Mohammed Taher2022

    • 著者名/発表者名
      Anup Saikia and Pankaj Thapa (Eds.)
    • 総ページ数
      241
    • 出版者
      Springer
    • ISBN
      978-3030476595
  • [学会・シンポジウム開催] Societal Impact of COVID-19 in Indonesia and Japan2021

  • [学会・シンポジウム開催] Impact of Covid-19 in Bangladesh and in Japan. Online meeting2020

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi