研究課題/領域番号 |
19H01398
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
安井 眞奈美 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (40309513)
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研究分担者 |
中本 剛二 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員 (50724720)
遠藤 誠之 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30644794)
倉田 誠 東京医科大学, 医学部, 准教授 (30585344)
松岡 悦子 奈良女子大学, その他部局等, 名誉教授 (10183948)
澤野 美智子 立命館大学, 総合心理学部, 准教授 (00759376)
伏見 裕子 大阪府立大学工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (60747492)
木村 正 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90240845)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 妊娠、出産 / 産科医療 / 流産、死産 / エスノグラフィー / ナラティブ / 思いがけないお産 / 口唇裂・口蓋裂 / 不育症 |
研究実績の概要 |
本年度は、コロナ禍において困難はあったものの、昨年度に引き続き大阪大学医学部附属病院・産婦人科にてフィールドワークとインタビューを行った。主に病院外来で参与観察をしながら、分担者である産科医の遠藤や他の産科医の診察に立ち会い、診察後に妊産婦の同意のもとインタビューを実施するという方法を採った。大阪大学医学部附属病院での調査は、安井、中本、伏見、松岡が担当した。昨年度の成果と合わせ、大学病院でのエスノグラフィーを記述するための観察記録、および医療者と患者間のコミュニケーションの在り方について考察するために、インタビュー内容を充実させた。安井は、産科医の木村、遠藤に現在日本の産科医療の現状と今後についてヒアリングを行った。またコロナ禍において対面での研究会開催が困難となったため、数回のweb会議を行い、成果を報告するとともに今後の方向性について議論した。 倉田は、東京医科大学病院での調査を実施するために、医学倫理審査への申請を検討した。COVID-19の感染拡大状況下において、院内での医療者へのインタビューや臨床現場への立ち会い調査は全面的に制限されており、代替となる調査の実施を検討した。澤野は、昨年度に引き続き、若年がん経験者の女性を対象に妊娠・出産を巡る困難についてのインタビュー調査を実施した。コロナ禍にてオンライン形式の調査を9名に実施した。木村は、一般の妊婦の多くが妊娠・出産を幸せな自然なイベントと捉えがちであるが、エヴィデンスによる現状を示し、感覚の差を埋めるために妊娠・出産に関する情報を発信した。 これまでの研究成果をまとめて、安井、遠藤、中本、伏見、松岡、澤野が「小特集「思いがけないお産の民俗」」を『日本民俗学』303号(2020年)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍ではあるが、現状を確認しながら制限を加えた上で調査を継続することができた。2019年12月に日本民俗学会・京都民俗学会談話会にて発表した「思いがけないお産の民俗」を受けて、さらに議論を続け、研究成果を学会誌である『日本民俗学』303号に公表した(安井・遠藤・中本・伏見・松岡・澤野 2020)。特集では、まず安井が「思いがけないお産」を定義し、遠藤が産科医にとっての思いがけないお産を解説、伏見が口唇裂・口蓋裂の民俗についてこれまでの議論を踏まえて整理し、中本は「不育症という経験」をまとめた。これらの論考に、松岡は文化人類学者の立場から、また澤野は医療人類学者の立場からコメントし、あわせて掲載した。この成果をもとに、現代の産科医療におけるエスノグラフィーを作成する準備を進めていく。 このほかにも松岡は、母乳に焦点を当て、出産後の母親が病院でどのような母乳指導を受けているのか、また出産を経た女性たちがどういう困難を経験しているのか、聞き取りを行った。日本では、母乳か人工乳かは女性が選択すればよいと言われているが、現実には多くの女性が母乳が出るなら母乳で育てたいと考えている点、またそれを受けて、このような女性の希望と、現実の出産施設における授乳への対応について明らかにする必要性を指摘した。母乳育児については、引き続き調べていくこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍が続くことが予想されるため、今後の調査方法について検討し、対応を考えていく。2020年に科研の関係者が集まり発表した「思いがけないお産の民俗」という視点を活かし、調査を進めていく。お産は、つねに女性の思い通りに進むとは限らず、不妊、流産、死産、緊急帝王切開、疾患をもつ子どもの出生などの「思いがけないお産」に直面することも多々ある。そのときに妊産婦とその家族は、さまざまな選択を強いられることがある。2020年から流行し始めた新型コロナウイルスによるさまざまな制約も、妊娠・出産に「思いがけない」事態をもたらすと考えられる。引き続き、この点を意識しながら、「思いがけない」お産に対する女性や家族の意思決定のあり方や葛藤を、妊産婦およびその家族だけに限らず、医療従事者にもインタビューしながら解明していきたい。 なおコロナ禍にて、インタビュー調査そのものが制限されていく可能性もあり、その際も臨機応変に対応し、コロナ禍のお産についての現状報告をしていきたい。科研の分担者とも、オンライン会議などを活用して連絡を取り合い、情報共有を継続していく。
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