研究課題/領域番号 |
19H01407
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢 明治大学, 法学部, 専任教授 (80226505)
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研究分担者 |
清末 愛砂 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00432427)
宮畑 加奈子 広島経済大学, 経済学部, 教授 (20441503)
徐 行 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (30580005)
櫻井 次郎 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (40362222)
宇田川 幸則 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (80298835)
岡 克彦 福岡女子大学, 国際文理学部, 教授 (90281774)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国法 / 権威主義体制 / 抑圧的法 / 自律的法 / 法の支配 / 一国二制度 |
研究実績の概要 |
2018年3月の憲法改正に象徴される権威主義的政治レジームがさらに深耕し、国家安全法制が強化される中国法について以下のような3つの視角から研究を進めた。 ①中国法に胎動する自律的法の生成の兆しについて。とくに民法典編纂が進むなかで民事法から見て法に質的変容が生じているか、デジタル化を積極的に進める裁判に司法の質を変える契機が含まれているかを探求した。民法典については2020年5月28日に成立したが、基本的には既存の規範を変えるものではなく、新たな質的変化は観察し得なかった。デジタル化による司法改革が意味するところは、新技術の導入による効率の向上、透明性と公正性のアピール、裁判官に対する監視・管理の強化であり、依然として共産党一党体制を維持するための正統性獲得をめざすものであることが明かとなった。 ②香港の一国二制度に対する変更の意味について。近年、中央政府は香港にも中国中央の法を適用する範囲を拡大しつつあり、2019年度は香港での逃亡犯条例の制定、2020年に入り中央での香港版国家安全法の制定の動きなどがあり、香港では大規模でデモによる市民の抵抗が続いている。周庭氏(香港浸会大学学生、 香港衆志メンバー、雨傘学生運動リーダー)、岑子杰氏(民間人権戦線招集者、香港区議会議員)、陳皓桓氏(民間人権戦線副招集者)を招聘して、講演会などを開催し、香港市民の中国法に対する闘争の意味を考察した。 ③近隣の権威主義的法との比較の視点。本研究では中国の権威主義法を相対化し、その特色を浮き彫りにするため、韓国、台湾、シンガポール法の過去、現在との比較を行う。今年度は後半、新型コロナウイルスの蔓延の影響で外国出張が叶わず、実態調査ができなかった。次年度以降に繰り延べて実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パンデミックの発生により実態調査のための外国出張、外国からの研究者、実務家招聘に支障が生じ、研究に若干の遅れが生じている。また、香港をめぐる法状況に急変が生じ、香港の一国二制度の行方が、中国の権威主義法を観察する視角として新たな有効性が浮上する中、研究の進め方にも変更を余儀なくされた。 しかし、前半は周庭氏(香港浸会大学学生、 香港衆志メンバー、雨傘学生運動リーダー)「香港における犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを可能にする条例改正案をめぐる攻防」(6月19日、明治大学開催)、李賛祥氏(中国弁護士)「中国行政訴訟実務の現状と問題点――実務経験を踏まえた現場報告」(7月17日、明治大学開催)、楊建利氏(民主運動NPO「公民力量」創始者)「中国はどこへ向かうのか──米中貿易摩擦、香港問題、宗教弾圧を踏まえての最新中国情勢の分析」(9月9日、明治大学開催)、岑子杰氏(民間人権戦線招集者、香港区議会議員)、陳皓桓氏(民間人権戦線副招集者)「香港の若者は何と闘っているのか?」(1月26日、明治大学開催)を招いて、講演会、シンポジウムを開催し、権威主義法の現状と変容の可能性について研究を進めることができた。また、11月10日には第15回日中公法学シンポジウム(島根大学開催)に参加し、中国の憲法、行政法学者と討議を行い、最新の議論に触れることができた。 以上のような活動のほか、あわせて日常的に文献収集、情報解析を行い、当初の目的を達成する努力を行うことで、おおむね順調に進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も文献収集、情報解析をそれぞれの研究者が継続するとともに、以下のような柱で研究を推進する。 1 内部でのこれまでの成果報告を行い、今後の方向性を議論するためのミーティングを開催する。パンデミックが収まれば東京でのリアルでの開催を検討し、収まらなければリモート開催に切り替える。 2 外国からの研究者、実務家、運動家などを招聘したセミナー、講演会、国際シンポジウムなどの開催を予定している。具体的には5月に制定された民法典の中国全体にとっての意味合いをめぐるテーマ、中国の新型コロナ対策の手法と問題点をめぐるテーマ、香港における国家安全法をめぐるテーマなどを想定している。 3 新型コロナ対策と法の問題は、韓国、台湾、シンガポールなどとの比較も、権威主義的法のそれぞれの国での残り方を見る上では格好のテーマであり、それぞれの領域に即して深めることを予定する。 4 昨年は実施できなかった海外実態調査を複数の国で実施する予定である。民主化後も残る権威主義的法の残滓が現行法にいかなる刻印を与えているかを観察したい。
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