研究課題
期限延長となった時間を利用し、研究代表者および分担者は、それぞれの対象国について権威主義的政治体制の下での法にはいかなる意義があり、またそれにはいかなる限界や特徴があるのかを解明するために、資料調査を続け、分析を深め、最終的成果物の取りまとめにむけて作業を行った。2024年3月2日、明治大学において国際シンポジウム「権威主義体制下での法の役割と限界――台湾、韓国、シンガポール、そして中国」を開催し、研究メンバーが集まって総括的な討論を行った。シンポジウムでは90年代まで権威主義体制が継続し、現在は「移行期の正義」に取り組む台湾から羅承宗(南台科技大学教授)を、また現在も市場的発展をめざしつつ、政治的には権威主義体制を続けているシンガポールから陳維曽(シンガポール国立大学法学部准教授)を招聘した。羅承宗氏からは「『ニセモノの立憲主義、実は訓政』:台湾白色テロ時期の立憲主義と法治の虚像と実像」、陳維曽氏からは「権威主義的法治と市場の発展――もう一つの法の支配モデルの運用、変転、限界」と題する報告がなされた。羅報告では台湾における白色テロ期に法が人権抑圧、権威主義体制維持のためのいかに動員されたか、そしてそれが民主化された今も台湾社会の随所に痕跡となって残っていることが明らかにされた。陳報告からはシンガポールでは権威主義的政治体制のもと市場的発展が優先される状況が続いているが、経済成長のパフォーマンスが順調であれば、体制に明確に異を唱える声は大きくないこと、それでも法制度はそれなりに自立的に緻密に運用されていることが明らかとなった。権威主義体制下において法は基本的に体制を維持するための道具として権力者により動員されつつも、非本質的ながら反射的に被統治者にも利益をもたらすことがある。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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