研究課題/領域番号 |
19H01412
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山元 一 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (10222382)
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研究分担者 |
近藤 圭介 京都大学, 法学研究科, 准教授 (00612392)
大野 悠介 下関市立大学, 経済学部, 講師 (00836926)
齋藤 民徒 関西学院大学, 法学部, 教授 (10401019)
興津 征雄 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10403213)
高山 佳奈子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30251432)
西谷 祐子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30301047)
小畑 郁 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (40194617)
横山 美夏 京都大学, 法学研究科, 教授 (80200921)
須網 隆夫 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80262418)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 憲法秩序 / 主権国家 / 国際法と国内法 / 立憲主義 / グローバル化 |
研究実績の概要 |
法理論的には,グローバル化により生じた法多元的状況の分析を主題とし,その下で行われる法的判断のあり方を考察することを目指した。具体的には,複数の法が差し向けられる個人が置かれた個別的な状況から出発する方法を模索し,「共感」の概念を手がかりとしてこの目的を達成しようと努めた。国内公法との関連では,基礎概念としての「正統性」(legitimacy)について,行政法学の見地から検討を行った。理論モデルとして意思説と利益説を設定し,公法学に有力な社会契約論は民主的正統化論はいずれも意思説の系譜に属するが,このモデルには裁量問題・包摂問題・代表問題の三つの難点があるため,それを補完するモデルとして利益説を発展させる必要があることを明らかにした。国際人権法との関連では,グローバル化の進展により,国際人権法が国内社会において援用・参照される現象を把握するための国際法学上の概念枠組の構築に取り組んだ。一元論・二元論といった形式論から焦点が移行してきた国内適用論,特に直接適用/間接適用の二分的概念の前提と射程の再検討に重点を置いて考察を進めた。経済活動との関係では,国法において「生産―流通―消費の過程」たる流通システムを析出することを主眼として研究を遂行した。具体的には,まず『憲法学のさらなる開拓』所収の「『消費者』の二重性と国家」において,「消費者」という言葉が「肉体の安全を保全されるべき主体」と「流通過程において取引をする主体」という2重の意味を与えられていることを考察した。家族法の分野では,グローバル化の中での憲法秩序の変容について,子の奪取に関するハーグ条約を素材として比較法的観点から考察を進めた。法の担い手との関係では,グローバル化に伴う法の変容に関連して,法律実務家,特に弁護士へのグローバル化の影響をテーマに,AIの弁護士業務への影響を含めて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法理論的には,「共感」の概念に基づいた個別的な状況に接近するアプローチの方向性を見出すことができた。国内公法学的には,まず最近の英米法理論を中心に,改めて信認理論が発展しており,これを手掛かりに立憲主義を前提とする諸アクターの権限と義務の確定にアプローチする方向性に大きな説得力があることを解明することができた。これに関連して,社会契約説的アプローチには,裁量問題・包摂問題・代表問題の三つの難点があるため,それを補完するモデルとして利益説を発展させる必要があることを明らかにすることができた点において,大きな進展が見られた。国際人権法関連では,行き場を失う個人の問題を意識して,政治的参加や徴兵義務の根拠としての国籍が同時に領域内居住権の根拠とされる状況が,どうして生じているのかを明らかにすることが重要な課題として解明された。経済活動との関係では,「薬事法判決における流通システムの析出」では,薬事法判決の判決文において「適正配置」には国民の生命の安全と流通の2つの観点があることが解明された。家族法関連では,欧州人権裁判所の判例や子どもの権利条約の解釈問題を中心に考察を進め,欧州議会や子どもの権利委員会による日本への提言を検討したうえで,日本としてどのように人権を遵守すべきか,という課題を抽出することができた。法の担い手たる諸アクターとの関連では,グローバル化と弁護士資格,グローバル化による弁護士業務への影響・弁護士の役割の変化等を,日本とヨーロッパについての検討を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
法理論的には,正統性の概念を中心にあるべき秩序の規制原理について考察を深める予定である。国内公法においては,まず立憲主義理論の多様な展開について,幅広い考察を心掛け,日本の立憲主義理論を発展させる契機となる手掛かりを解明することが研究の推進方策の主軸となる。行政法領域では,利益説を具体的にどのように制度化していくかまでは期間中に解明することができなかったので,これが今後の研究推進方策となる。国際人権法関連では,京都ヘイトスピーチ事件をはじめとする国内適用の具体的事例を通した概念枠組の実践的な応用可能性の増強が今後の研究推進方策の主軸となる。また,行き場を失う個人の問題を意識して,政治的参加や徴兵義務の根拠としての国籍が同時に領域内居住権の根拠とされる状況が,どうして生じているのかを明らかにすること,そしてその関連では,戦後日本の外国人法史の批判的分析が研究推進の主軸となる。家族法関連では,両親の離別後に子との交流を確保するためにいかにして共同親権・共同監護や面会交流を実現すべきかについて具体的に検討することが課題となる。法の担い手との関連では,グローバル化と弁護士資格,グローバル化による弁護士業務への影響・弁護士の役割の変化等を,日本とヨーロッパにつき検討することが課題となる。
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