研究課題/領域番号 |
19H01415
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 洋一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (50201934)
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研究分担者 |
寺谷 広司 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (30261944)
濱本 正太郎 京都大学, 法学研究科, 教授 (50324900)
須網 隆夫 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80262418)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヨーロッパ法 / 国際法 / 国際裁判所 / 国際人権法 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は,第一に,未だ十分な実証研究がなされているとは言えないヨーロッパにおける「裁判官対話」の実態解明,第二に,ヨーロッパにおける「裁判官対話」の普遍性ないし射程を,アジアにおける動向の調査をおこないつつ,日本を含むアジアをも念頭に置いて検討すること,第三に,「裁判官対話」に関する理論的問題については,既に多くの文献がありながら,正面からあまり検討されてきていない国際法・EU法上の理論的問題の検討であった. 今年度は,上記第一および第二の課題につき進展が見られた.まず第一の課題につき,伊藤がフランスにおける「裁判官対話」の実態解明の一環として,フランスの行政裁判所系統の最上級審である国務院および民刑事裁判所系統の最上級審である破毀院に関する調査を継続し,EFTA裁判所のBaudenbacher元長官が回顧録を公刊した(Baudenbacher, Carl, Judicial Independence. Memoirs of a European Judge, Berlin, Springer, 2019, XLII, 520 p.)ことから,共同研究者が同回顧録の各章を交互に読んで報告することにした. 第二の課題については,まず日本の裁判所における「裁判官対話」の可能性を検討する前提として,裁判所の国際交流,比較法の実態研究の必要性認識を共有した共同研究者全員が,最高裁寺田元長官のインタビューに参加し,その後インタビュー内容について討議することができた.その他,伊藤が最高裁の大谷長官および調査官と,裁判所内部における比較法利用の実態につき話す機会を得た. また,アジアにおける「裁判官対話」の可能性については,須網・伊藤が,韓国の延世大学で開催された日韓シンポジウムに参加し,韓国憲法裁判所および大法院(民刑事の最高裁)における比較法研究の実態につき情報を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の上記第一の課題については,伊藤が「裁判官対話」の実態解明の事例研究として,フランスをとりあげ,パリで資料収集および実態調査を行った.具体的には,フランス国立公文書館で今年公開された1994年度の憲法院の評議要録,1980年代後半に国務院副院長を務めたLong関係文書の一部を調査・収集することができた.また,Poillot-Peruzzetto教授のご協力を得て,破毀院の報告調査部のSommer部長および2名の職員の聞き取り調査を行い,近年の破毀院における比較法調査の実態・体制につき貴重な情報を得ることができた. また,上記Baudenbacher回顧録には,部外者には到底窺い知ることのできないような国際裁判所の法廷内外の「裁判官対話」に関する戦略・活動が活写されており,ヨーロッパにおける「裁判官対話」の実態を知る極めて有益な資料であるため,共同研究者が同回顧録の各章につき報告・討議することにした. 第二の課題については,まず日本の裁判所における「裁判官対話」の可能性を検討する前提となる文献・データが,ヨーロッパに比べ極めて乏しいため,インタビュー等による調査の必要性が共同研究者の間で共有されていた.そこで,特任教授として早稲田大学に出講していた最高裁の寺田元長官を招いて,共同研究者全員がインタビューに参加し,その後インタビュー内容について討議することができた.その他,伊藤が最高裁図書委員会の機会を利用し,大谷最高裁長官および調査官と,裁判所内部における比較法利用の実態につきインタビューする機会を得た. また,アジアにおける「裁判官対話」の可能性については,須網・伊藤が,韓国の延世大学で開催された日韓シンポジウムに参加・報告した際に,韓国憲法裁判所および大法院(民刑事の最高裁)関係者から,韓国の裁判所における比較法研究の実態につき貴重な直接情報を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第一の課題については,ヨーロッパにおける「裁判官対話」の実態に迫るために,伊藤が「大国」フランス,濵本が「小国」(EU加盟国のベルギー,ルクセンブルク,EFTA加盟国のスイス,EEA加盟国のリヒテンシュタイン)の国内裁判所を対象として,その実態調査を継続する.EFTA裁判所のBaudenbacher元長官の上記回顧録に含まれる,EU/EEAにおける「裁判官対話」の実態に関する貴重な証言を手掛かりとし研究を進める.また,伊藤は,2018年に発効した欧州人権条約第16議定書の最初の適用例が早くも2019年に現れたので,その分析を進める予定である. 本研究の第二の課題であるアジアにおける「裁判官対話」の萌芽の存在・実態調査については,まず近年活発な国際的活動を展開している韓国憲法裁判所,韓国がホスト国となっているアジア憲法裁判所協会(AACC)等を介して,更なる調査計画を検討したい.また,日本の国内でも知財高裁は,他の裁判所とは対照的に,裁判所の国際交流,比較法に積極姿勢をとっている模様であり,日本における「裁判官対話」の萌芽たりうる例外的存在として注目に値するので,インタビュー調査を検討したい. 上述のような「裁判官対話」の実態研究を基礎として,本研究の第三の課題である「裁判官対話」に関わる解釈権,正統性等の理論的問題の検討を深めたい.そのために不可欠な基礎作業として,近時公刊が相次いでいる「裁判官対話」研究関連文献の調査・収集も継続的に行う予定である.
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