研究課題/領域番号 |
19H01430
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中出 哲 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (40570049)
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研究分担者 |
野村 美明 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特任教授 (20144420)
小塚 荘一郎 学習院大学, 法学部, 教授 (30242085)
土岐 孝宏 中京大学, 法学部, 教授 (70434561)
榊 素寛 神戸大学, 法学研究科, 教授 (80313055)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 企業保険 / 保険法 / 保険法契約原則 / ヨーロッパ保険契約法原則(PEICL) / 再保険契約原則(PRICL) / 告知義務 / 保険契約における免責条項 / 保険約款 |
研究実績の概要 |
本研究では、企業保険契約の法理を明らかにするために、国内外の実務の把握、外国の学説・動向の調査から進めた。国内は、保険会社、保険仲立人、鑑定人からのヒアリングを基本とした。外国については、新型コロナによって現地ヒアリングが困難となり、文献調査を中心として研究を進めた。研究の成果は、以下の4つに分けられる。 第一は、企業保険取引の実態の調査で、その結果は、『企業損害保険の理論と実務』(2021年8月)の専門書に反映させた。同書は、類書がないなかで実務からも高く評価されている。 第二は、研究の柱の一つとした再保険契約法に関する研究である。国際的研究プロジェクトである再保険契約原則(PRICL)(事務局:スイス及びドイツ)に、研究員2名が起草委員として参画し、特に、保険期間に関する原則の起草を担当している。コロナによって国際会議が延長されたが、引き続き内容の検討を進めている。また、再保険契約について、わが国裁判例の研究も行っており、今後、論文として公表する予定である。 第三は、保険契約法の重要論点の研究で、外国法との比較や日本の裁判例の研究を進め、その結果を2021年に学会報告や論文として発表した。告知義務について、ドイツ法との比較研究論文を発表した。また、保険契約における免責について、日本保険学会や韓国学会での研究報告、論文、判例研究を公表した。また、個別の重要問題として、巨大災害に対する損害保険制度の課題、D&O保険、自動運転関係の研究も進め、その成果は、2021年に学会報告や論文の成果に結びついた。また、保険法研究は、保険法コンメンタールや国際私法の教科書の執筆にも反映させることができた。 第四は、世界的な重要研究成果である「ヨーロッパ保険契約法原則(PEICL)」の解説書の翻訳で、一次翻訳が完了し、出版に向けた作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、企業保険契約の法理につき、(イ)国内外実務の把握、(ロ)外国の学説・動向の調査、(ハ)法理の抽出、(ニ)法と経済学等を利用した法理の合理性検証、(ホ)リステイトメントの試案作成と改善、(ヘ)リステイトメントの公表と更なる国際的研究への橋渡しを行う方針で進めてきた。 初年度は、日本、イギリス、ドイツ、米国の状況の調査、保険法分野での世界的な研究プロジェクト(PRICL)への参画、保険法の国際会議への参加により、主として(イ)国内外実務の把握と(ロ)外国の学説・動向の調査を行った。特に、PRICLについては、起草委員として参加し、保険期間に関する原則を起案した。また、PRICLの意義や内容について、2019年6月に私法統一研究会、2019年12月に台湾保険法学会・台湾政治大学(英語)で研究報告し、論文としてもまとめて公表した(2020年5月)。 2020年度は、新型コロナ問題によって予定していた国際会議(世界保険法学会、PRICL起草委員会、ヨーロッパ保険契約法学会)が延期となってその機会は利用できなかったが、翌年に継続して調査研究を進めた。企業保険契約に関する国内外の実務調査は、企業保険契約に関する専門書に反映させた(2021年8月刊行)。また、企業保険契約の重要論点の研究を進め、告知義務と保険契約における免責について、2021年に学会報告や学術論文誌による研究発表として実現した。また、他の論点に関する研究や再保険契約に関する判例研究などを行った。また、研究は保険法コンメンタールや教科書執筆に反映させることができた。更に、2020年度にヨーロッパ保険契約法原則(PEICL)の解説書の翻訳にも着手した。 以上に加え、企業保険原則における(ハ)法理の抽出を進め、(ホ)リステイトメントしてのまとめ方、公表方法などについての検討も進めた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、企業保険契約の法理につき、国内外の実務の把握、外国の学説・動向の調査、法理の抽出、法と経済学等を利用した法理の合理性検証、リステイトメントの試案作成と改善、リステイトメントの公表と更なる国際的研究への橋渡しという過程を計画してきたが、これまでの研究・検討の結果、リステイトメントは、判例や実務を成文化するものではなく、PRICLやPEICLなどの最新の国際的研究をモデルとして、あるべき法原則を明らかにするものとすることとした。その方針に沿って、2021年度以降、関係する法原則の抽出と重要論点の研究を進め、成果は、個別の論点ごとに学会報告や論文として公表している。今後は、個別論点の研究報告に加え、全体の体系化に尽力する。具体的には、以下の通りである。 第一は、企業保険契約において重要な再保険契約の研究で、PRICL起草委員会へ参画し、条文案の作成に貢献する。なお、PRICLプロジェクト自体は、全体の完成まで数年は要する見通しである。研究の過程で、再保険契約原則に関する判例研究等の論文等も発表していく。 第二は、リステイトメントのモデルとなるPEICL解説書の翻訳出版である。翻訳作業はおおむね完了しているが、細部の点検と全体の調整をすすめて、2023年の出版を目指す。また、同原則に関する研究会・説明会も実施する。 第三に、リステイトメントを構成する重要な原則・論点に関する研究を学会報告や論文としてまとめて発表していく。 第四に、企業保険契約原則の重要な論点の整理・体系化を進める。特に、企業保険契約が他の保険契約とは異なる本質的特徴がどこから生まれ、いかなる効果を有するか、企業損害保険契約の本質に対する研究を進め、その成果を骨格としてリステイトメントの基盤を作り上げる。研究の成果は、学会等で報告し、論文にまとめる。
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