研究課題/領域番号 |
19H01431
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
中西 正 同志社大学, 司法研究科, 教授 (10198145)
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研究分担者 |
瀬戸口 祐基 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (20707468)
青木 哲 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40313051)
杉本 和士 法政大学, 法学部, 教授 (40434229)
藤澤 治奈 立教大学, 法学部, 教授 (60453966)
米倉 暢大 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (60632247)
内海 博俊 立教大学, 法学部, 教授 (70456094)
水元 宏典 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (80303999)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 合理的相殺期待 / ABL / 双方未履行双務契約 / 倒産実体法 / 差押債権者の地位 / 破産法 / 民事再生法 / 私的整理 |
研究実績の概要 |
(1) 倒産法における双方未履行双務契約の解除の効果の再構成 破産法53条は実務上使うことが困難である点、その主たる原因は同条の解除構成にある点は、明らかにできたと思われる(通説・判例の立場に立たれていた有力な論者からの承認も得た。第91回日本民事訴訟法学会大会・シンポジウム参照)。さらに、平時実体法と倒産実体法の連続性の確立の観点からも履行拒絶説が正当であることの論証にも、成功したと考えている(中西論文参照)。 (2) 相殺期待の保護の基準 ドイツ法は、相殺期待保護を、当初は金融担保型(破産法)と一般型(民法)の二本立てで行い、後に、法の規定上は後者で一本化しつつ、前者は私的自治を根拠に銀行取引約款等において存在している。以上の点については、ドイツ留学中の研究分担者の研究成果待ちである。その間、研究代表者が主張する同時履行の抗弁権型の相殺期待について、検討を行った。強制執行と破産における発現形態を検討した結果、「同時履行の抗弁権型の相殺期待」概念に疑念をもつメンバーが多数となり、さらに検討を続けることになった。 (3) ABLの民法上の位置づけと倒産手続における処遇 商品・製品→売掛代金債権→当座預金をまたぐ構造、担保権者と債務者のエクイティーの分配、支払不能の陥った時の偏頗行為否認の構造に関する、藤澤=杉本説につき、基本的な合意を得た。ただ、現在行われている議論は、これまでの担保権に関する法律構成をどのように応用するかに重点が置かれ過ぎており、財務状況の悪化した債務者が事業再構築を行う際、金融機関がABL融資を行い、事業再構築の進展と財務状況の推移をモニターし、失敗すれば、準則型私的整理、さらには法的整理に移行するというプロセスで、如何にABLを有効に機能させるかという視点が欠けていると思われた。そこで、金融機関へのインタビューが不可欠との結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症問題の影響は深刻で、日本にいる各研究者の研究、研究会の開催、研究協力者(弁護士、金融機関)との連携、及び、ドイツ留学中の米倉暢大准教授の研究等に、甚大な支障が生じた。 Zoomを使った研究会などにより、研究会の開催、研究協力者(弁護士、金融機関)との連携を確立すべく、努力が必要である。 全力を尽くしたい。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 相殺期待の保護の基準については、米倉准教授帰国後直ちに研究成果をまとめることができるよう、準備が必要である。まず、疑念が生じている「同時履行の抗弁権型相殺期待」の正当性につき、結論を出す。これについてはRecoupementが参考になると思われる。次に、我が国でも、金融担保型相殺期待と民法型相殺期待の併存を認めるべきか、認めるべきとして、それぞれの要件・効果(制限説、無制限説、強い無制限説など)につき、検討しておかなければならない。これについては、中西が中間報告的な論文を執筆することになった。 (2) ABLの民法上の位置付けと倒産手続における処遇の問題については、藤澤=杉本両教授がこれまでの研究を進めて行く。ただし、金融機関がABLを利用する際のシミュレーションが必要となったことから、差し当たりはメガ・バンクの担当者や、ABLの利用につき極めて高い評価を得ている弁護士に、インタビュー調査をすることとなった。2020年度はこれらを踏まえた成果を発表することにしたい。 (3) 倒産法における双方未履行双務契約の規律の再構成については、次の、(a)、(b)、(c)のステップで、論証(社会を説得する作業)を行うこととする。(a)破産法53条が現在非常に使いにくい原因は同条の「解除構成」にあり、これを除去するには、解除を将来効に限定するか、履行拒絶説を採用するか、いずれかを取る必要がある。(b)仮に(a)が承認されれば、次に、平時実体法と倒産実体法の連続性の理念からは、履行拒絶説を採用するほかないことを、明らかにする。(c)仮に(b)が承認されれば、履行拒絶説に立てばこれまでの解釈や実務はどうなるのかを示した上で、履行拒絶説によれば、公平かつ合理的で、比較法的に見ても一般的な(我が国の現在の規律は比較法的に極めて孤立している)、結論を導くことができることを、示す。
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