研究実績の概要 |
本年度は,所得格差が拡大・縮小される可能性について,2回にわたるオンライン実験を1000人規模で行った. 仮説としては,第一に,資源格差をもたらす要因が,運によるか実力によるかによって格差が縮小するかもしれない.運による場合,実力による場合より,富裕者に不平等回避の感情が働きやすく,貧者への資源提供が増加する可能性がある(Nax et al 2018).実験的に,資源格差が完全にランダムに決定される場合と,リアルエフォートゲーム(Gill & Prowse, 2012)等の成果に応じて資源格差を生じさせる場合を作り出し,運か実力かを操作する.第二に,間接互恵性(Nowak & Sigmund, 1998)による評判の影響を考察する.富裕者から貧者への資源提供は「恵まれない他者への施し」として富裕者の評判を高め,長期的には資源提供者の利益を高める可能性がある.自由マッチング状況で,資源提供の情報が共有される場合,富裕者は評判獲得のために,貧者への提供を行いやすく,格差の拡大は抑えられ,縮小する可能性がある. このように,個人間インタラクションに着目し,格差の拡大とその縮小に導く要因を検討した結果,やはり,運による資源を得た場合は,より平等な資源再配分を行う傾向がみられた. この研究成果を英文論文にまとめ,European Economic Reviewに "DYNAMISM OF INVESTMENT: WEALTH VISIBILITY LEADS TO A TRADE-OFF BETWEEN SOCIAL MOBILITY AND WEALTH SATISFACTION"として投稿し,現在,査読中である.
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