本研究では、市場機能が未発達とされる開発途上国において、市場構造の分析と、市場の機 能改善による貧困削減効果の推定を、マダガスカルとベトナムのデータを用いて行った。マダガスカルのコメ取引市場の調査からは、買い手のサーチ行動において、仲介業者が重要な役割を果たしていることが分かった。先行研究では、買い手が直接売り手を探す形のランダムサーチのモデルが採用されているが、買い手は仲介業者に手数料を払って在庫があり価格も安く質も高い売り手をサーチしていることを鑑みると、仲介業者をプラットフォームと見立てたモデルの方が現実妥当性が高い。通常のプラットフォームの分析では、インターネット取引が分析の主対象なこともあり、プラットフォームは顧客情報を管理するコストがゼロと想定されて分析が進められているが、コメの仲介業者の場合は、日々売り手の在庫状況をアップデートしていく必要があるため、情報管理コストを入れた分析が必要になってくる。以上の状況を描写した論文を現在執筆中である。 また、ベトナムでは、過去20年のPro poor growthの程度を計測するために、Ray&GenicotのUpward mobilityの指標を分解する手法を提案し、分析を進めている。その結果、ベトナムの貧困削減においては、労働市場を通じた所得上昇の影響が大きかったこと、金融アクセス改善の影響は限定的であったこと、工業化が重要であったことなどが示された。 さらに市場機能を補完するNGOが提供するマイクロクレジットにも焦点を当て、バングラデシュのデータを用い、実証分析と理論モデルを用いたシミュレーションにより、新たな融資設計のあり方を提案した。
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