研究課題
研究課題である「高齢社会における家庭、市場および国の役割に関する理論的研究」を中心に、周辺領域も含め、研究グループ構成員が各自の問題意識に沿って、研究を進めた。焼田は高齢者介護の問題を、「誰が介護を担うか」を巡って研究を進めた。夫婦の市場労働と家庭内介護の間の時間配分を明示的に扱う世代重複モデルを構築し、子どもが親世代の介護を利他的に供給するするとしても、まず、男女間の賃金格差がある場合には、賃金の低い配偶者あるいは子ども(多くの場合女性)が親の介護を担うこと、しかし、その賃金率が経済発展とともに高くなると、親世代の介護の機会費用が高くなるので、介護サービスの供給量を減らすことになること、そして、家庭内介護が十分になされなくなるほどに賃金率が高くなると子どもが介護保険負担をするか、あるいは、人道上(あるいは社会規範から)どうしても介護を必要と考える場合には、公的介護によって親世代の介護をする可能性があることが示された。さらに、現実にはなっていないが、賃金率がより高くなる場合には、再び家庭内で介護がなされる可能背があることも示された。残る問題の一つは、子どもの利他主義が弱い場合に、どのように高齢者介護を社会として供給してゆくかという視点である。宮澤と北浦は税制や財政システムの面から、所得分配の問題を研究した。また、宮澤は財政維持の問題を開放経済の枠組みで研究した。研究グループメンバー以外の研究者との共同研究として雑誌に掲載された。大森は高齢化の進む地方での保育・教育政策についてデータ収集や既存の研究についてサーベイし、その間に公的教育と国防の間の最適資源配分を分析した研究を焼田が編集者の一人である書物に掲載している。
2: おおむね順調に進展している
基本的に研究者の個人的問題意識にしたがってそれぞれ研究を進め、結果的につながりのある高齢社会の諸相を分析することを目的としているので、各自の研究成果が形を成しながら進展しているので、順調に進展していると判断している。研究成果の一部が既に公表されているので、むしろ予想以上に進展しているとも言える。
今後とも、これまでの研究スタイルを維持しながら、それぞれに研究成果を報告しあい、より良い成果になるように切磋琢磨してゆく。焼田は、上に述べたように、子どもの利他主義が弱い場合の高齢者介護の問題を考えてゆくことで、より一層現実の制度・政策に関するインプリケーションが得られるように研究を進める。他のメンバーもそれぞれに問題を発展させてゆくことになる。宮澤は財政制度や所得分配不平等、特に世代間不平等の問題を考えることになろう。大森は、少子化による地方の学校が統廃合されていく中で、公的教育支出を増やすことは都市への進学者を増やして、人口減少を加速させる関係性があり、2020年度はこの事実を理論モデル化することに取り組む。北浦は、家庭内労働特に児童労働や教育の問題について、議論を深める予定である。平澤は、高齢者介護や出生など、家庭内の問題に焦点を当て、それらの相互関係の中で、高齢者介護や育児の問題あるいは女性労働の問題を分析してゆく。一時的に研究会開催は困難となっているが、開催が可能になれば、研究課題メンバーだけでなく、近い領域の他の研究者とも研究交流を図り、研究のレベルを上げるようにしたい。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) 図書 (2件)
Journal of the Economics of Aging
巻: 15 ページ: -
https://doi.org/10.1016/j.joea.2019.100210
『経済論纂(中央大学)』
巻: 60 ページ: 47-64
Research in Economics
巻: 73 ページ: 321-328
https://doi.org/10.1016/j.rie.2019.10.002
European Economic Review
巻: 120 ページ: 1-20
https://doi.org/10.1016/j.euroecorev.2019.103305
ICES Working Paper (Hosei University)
巻: 215 ページ: 1-36
Hosoe, M., Ju, B.-G., Yakita, A., Hong, K 編著Contemporary Issues in Applied Economics所収
巻: Chap 14 ページ: 245-256
巻: Chap 2 ページ: 37-52