研究実績の概要 |
研究最終年度として,理論モデル,データ,検証方法の再検討を行い,これまでの研究を修正した。このとき,日本のライフサイエンス分野における研究生産性低下が起きているかについて追加研究を行った。 第1は,医薬品に関する日本の輸入超過は拡大しているが,日本の技術輸出は逆に増加している。その解釈のために親会社と子会社の取引を分析する必要が生じた。これを「科学技術研究調査」個票データによる分析を検討したが,個別企業のデータ開示制限があり,有価証券報告書記載情報によって代替した。第2は,日本の研究生産性の低下の原因として,大学等の研究機関の基礎研究の停滞が原因であるとする仮説に基づいて,IQVIA社のデータベースを使用して,日米欧の医薬品開発における大学,ベンチャービジネスの貢献度を測定した。第3に,基礎研究,臨床研究における企業と大学,研究機関,医療機関について,アメリカ合衆国のNIH, RePortデータベースを利用して研究助成を受けた主体の地域特性,特許データを用いた分析を行った。 これらの研究の結果,日本のライフサイエンス,特に医薬品分野での研究開発成果の低下が示された。しかし,基礎研究における大学・研究機関の研究プロジェクトが医薬品として承認にまで至る数は世界的にも限られ,日本の研究開発の生産性が欧米と比較してとくに低下していることは確認されなかった。他方,日本の公的研究資金予算規模は欧米に比較して停滞している。また,日本の大学,研究機関による医薬品開発を目的とした研究プロジェクト数,臨床研究プロジェクト数は相対的に低下していることが確認された。日本の医薬品研究開発成果の低下は,日本の研究開発効率性の低下ではなく,プロジェクト数が欧米に比較して相対的に低下したからと解釈できる。 以上の成果はいくつかの論文に分けて発表を準備中である。
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