研究実績の概要 |
本研究は、効率性、利便性、機能性を追求してきた20世紀の資本主義を基礎にした経済活動および学術的研究の限界を解決する新しい文明論を提言することを目的にした。持続可能で安定的な社会を創造するためにはレジリエンスな構造を持つ生産と消費の仕組みを理論的かつ実務的に構築する必要があり、ことさら日本においては疲弊し衰退する地域の内発的発展を促す農村経営のロジックを学術的に検討し提示することが急務である。そこで、本研究は、経営学やマーケティングの既存の理論枠組みでは十分に解決できない地域活性化に関わる、都市と農村のバリューチェーンによる地域の産業基盤の構築が実現する地域活性化の新しい理論モデルを構築するために、建築史、法律、政策、経営学、文化、歴史という多様な学問分野と枠組みを用いた学際的・国際的共同研究を実施した。 重要な概念はテリトーリオである。テリトーリオは「地形・地質、水や緑の生態系などの自然条件の上に、人々の手になる農業の営みやそれが結実した景観があり、町や村の居住地に加え、農場、修道院が点在する。その総体」(陣内, 2019, p.13)であり、都市、集落、田園の「1つの共通の社会経済的・文化的アイデンティティをもつ地域」(陣内他, 2019, p.2)と定義される。 テリトーリオ活性化によって農村に輝きを取り戻すことに成功した国としてイタリアが挙げられる。農業経営は地域の地形と歴史に深く結び付いているという主張にならい、コモンズの精神を持つ関連主体が地域の社会関係資本を再発見・活用しプロジェクト活動を通じたボトムアップ型共同行動でテリトーリオの文化的アイデンティティを形成し、経済・社会・環境価値を生み出すことをイタリアの事例を用いて明らかにした。成果として2022年3月に白桃書房より書籍を出版した。
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