本研究では、五つの課題(課題1:知的障害のある人の性をめぐる歴史的・社会的・構造的実態の解明、課題2:就労支援事業所にける性教育実施の有無の解明、課題3:知的障害のある人の性に関する認知・理解の実態の解明、課題4:知的障害のある人のための性教育プログラムの開発、課題5:性のノーマライゼーション化を図るための環境整備の方法の解明)を明らかにしようとした。 課題1では先行研究の分析と現地調査を通して、課題2では全国の関係機関を対象とした性教育に関する実態調査を通して、課題3では岩手・長野・長崎の就労支援事業所における性に関する認知・理解度調査を通して、課題4では岩手・長野・長崎の就労支援事業所での性教育実践を通して、課題5では「性のノーマライゼーション化」を図るための環境整備の検討を通して、課題解明へのアプローチを行った。 5課題の研究結果を踏まえ、「性のノーマライゼーション化を図るための方策」の検討を行った。検討結果は、ミクロレベルの「自己決定」や「心理的前提条件」、メゾレベルの「ノーマルな性的生活環境」「機能性」「個別支援」「地域住民の理解」の獲得、「認知・理解の向上」、「わかりやすい情報の提供」、マクロレベルの「社会的・組織的包括支援ネットワーク」、「教育・福祉・就労・余暇活動・生涯学習間の連携」が必要となることを「知的障害のある人のための社会-性的包括支援モデル」を通して提示した。また、公的支援を導入しながら多様な性に関する取組み(性教育等)を生涯学習機関と連携しながら行うことや、社会福祉法人等に「性と対人関係支援室」部門を設置することで、わかりやすく「性と対人関係」に関する情報を伝え(「機能性」)、「個別支援」や「心理的前提条件」「地域住民の理解」を得ていくことで、「性のノーマライゼーション化」も「性的共生社会」の創造も可能になると結論づけることができた。
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