研究実績の概要 |
本研究の目的は、近世日本の宗門人別改帳をベースとした東北地域の多世代パネルデータを拡充・活用し、庶民の家族・ライフコースと社会的・地理的移動の関係を探ることである。最終年度として以下の3点を中心に進めた。 (A) 家族・ライフコースと社会的・地理的移動分析: ①多項ロジットモデルを利用し、世帯の社会経済的地位や結婚関係を抑制した上で移動の影響を探るモデルを開発した。それにより出身地と死亡・移動・欠落というイベントの関係性が明らかになり、今後の分析の発展に向けて計画を立てることができた。これらの研究成果を日本人口学会、WEHC (世界経済史学会)、IUSSP (国際人口学会)セミナー、SSHA (社会科学史学会)で発表した。②これまでの研究成果と今後の展望を『日本人口学会報告書 歴史人口学の課題と展望』(日本人口学会研究企画委員会編)4,5,8,17,18章にまとめた。これらは今後さらに改良を加えて出版予定である。 (B) データベース拡充と質的資料の統合: ①重点地域である二本松藩の安達郡長屋村他2ヶ村の宗門改帳解読と基礎データシート作成し、同郡白岩村他3ヶ村の入力を行なった。②越後約50ヶ村個人・世帯情報の修正更新を進め、人口の基礎情報を算出した。③東北地方最長・最古の史料とされる会津藩金井沢村における稲の作況史料データベースを完成し死亡危機と稲の作況との関係の実証的分析を検討した。また新たに陸奥国守山藩御用留帳に記されている天気の記録のデジタル化を試みた。 (C)東ヨーロッパとの比較研究: 生命空間に関する対比研究を受けて、現在のチェコ共和国全体の人口調査である1651年センサスに着目し、地域単位問題の淵源を探る研究を新たに開始した。また南ボヘミアの共同研究者と共に多くの若手研究者を交えて、英文の編著を作成する準備を始めた。
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